指しゃぶりと脳の発達の関係は?赤ちゃんの発達段階と適切な対応方法

指しゃぶり

赤ちゃんが頻繁に指を口に入れる様子を見て、どのような意味があるのか気になったことはありませんか。

実は、乳幼児期に見られる指しゃぶりは、脳の発達において重要な役割を果たしています。

この行動は単なる癖ではなく、感覚を通じて世界を理解しようとする探索活動の一つです。

ただし、年齢や頻度によっては注意が必要なケースもあります。

本記事では、指しゃぶりと脳の発達がどのように関係しているのか、発達段階ごとの意味や適切な対応方法を詳しく解説します。

指しゃぶりが脳の発達に果たす重要な役割

指しゃぶりは、赤ちゃんの脳が感覚情報を統合し、身体認識を深めるために必要な行動です。

乳幼児期の赤ちゃんは、口を通じて物を認識する「口唇期」と呼ばれる発達段階にあります。口の中は触覚受容体が非常に多く、指を吸うことで温度、質感、形などの情報が脳に送られます。この感覚刺激が脳の神経回路を活性化させ、感覚統合能力を育てていくのです。

また、指しゃぶりは自己調整能力の獲得にもつながります。不安を感じたときや眠いときに指を吸うことで、赤ちゃんは自分自身を落ち着かせる方法を学んでいます。これは情緒を司る脳の領域が発達している証拠でもあります。手と口を協調させる運動も、脳の運動野の発達を促進します。

つまり、指しゃぶりは感覚、情緒、運動といった複数の脳機能の発達を同時に促す、自然で重要な行動なのです。

では、この行動が年齢によってどのように変化していくのかを見ていきましょう。

年齢別にみる指しゃぶりと脳の発達段階

年齢によって指しゃぶりの意味や脳の発達における役割は変化していきます。

0〜6ヶ月の指しゃぶり

生後間もない赤ちゃんにとって、指しゃぶりは生理的な反射行動から始まります。吸啜反射という原始反射の一つで、口に触れたものを吸おうとする本能的な動きです。この時期の脳はまだ未熟で、外界の情報を口を通じて取り入れることで急速に発達していきます。

指を吸う行動を通じて、赤ちゃんは「自分の身体」と「外界」の境界を認識し始めます。自分の指を吸っているという感覚が、身体図式(ボディイメージ)の形成につながります。この時期の指しゃぶりは、脳が基本的な感覚処理能力を獲得する上で極めて重要です。

6ヶ月〜2歳の指しゃぶり

この時期になると、指しゃぶりは反射的な行動から意図的な行動へと変化します。赤ちゃんは自分の意志で指を口に運び、安心感を得たり、退屈を紛らわせたりするようになります。

脳の前頭前野が発達し始めるこの時期は、感情のコントロールを学ぶ重要な段階です。指しゃぶりは、ストレスや不安を感じたときに自分で気持ちを落ち着かせる「セルフコンフォーティング(自己慰撫)」の手段となります。また、手指の細かい動きをコントロールする能力も向上し、脳の運動制御機能が洗練されていきます。

3歳以降の指しゃぶり

3歳を過ぎると、多くのこどもは指しゃぶりから自然に卒業していきます。これは脳が成熟し、指しゃぶり以外の方法で情緒を調整できるようになってきた証拠です。言語能力の発達により、気持ちを言葉で表現できるようになることも大きな要因です。

ただし、この年齢でも指しゃぶりが続くどももいます。多くは習慣として残っているだけで、特に問題はありません。しかし、頻度が高い場合や強いストレス下で行われる場合は、情緒面でのサポートが必要なこともあります。

このように、年齢とともに指しゃぶりの意味は変化し、それぞれの段階で脳の発達を支える役割を果たしているのです。

次に、指しゃぶりが促す具体的な発達面でのメリットを詳しく見ていきましょう。

指しゃぶりが促す脳の発達面でのメリット

指しゃぶりには、脳の複数の領域の発達を促進する具体的なメリットがあります。

まず、感覚統合能力の発達が挙げられます。口の中の触覚、指の感覚、吸う動作の運動感覚など、複数の感覚情報を同時に処理することで、脳は感覚を統合する力を養います。これは将来的に、複雑な情報を処理する基礎となります。

次に、自己調整能力の獲得です。赤ちゃんは指しゃぶりを通じて、不快な感情を自分でコントロールする方法を学びます。これは情緒の発達において非常に重要で、将来のストレス対処能力の土台となります。親に頼らずに自分で気持ちを落ち着かせられることは、自律性の発達にもつながります。

また、情緒の安定も重要なポイントです。安心感を得られる行動を持つことで、赤ちゃんの情緒は安定します。情緒が安定すると、脳は新しいことを学ぶ余裕が生まれ、認知機能の発達も促進されます。不安が強い状態では学習効率が下がるため、指しゃぶりによる安心感は間接的に脳の発達全体を支えているのです。

さらに、手と口の協調運動も見逃せません。指を正確に口に運ぶ動作は、目と手の協調、手指の微細運動、口の運動など、複数の運動機能を統合する練習になります。この協調運動の経験は、食事やおもちゃの操作など、日常生活の様々な動作の基礎となります。

このように、指しゃぶりは単なる癖ではなく、脳の多面的な発達を促す有益な行動なのです。

ただし、すべての指しゃぶりが好ましいわけではなく、注意が必要なケースもあります。

脳の発達の観点から注意すべき指しゃぶりのケース

指しゃぶりが発達に役立つ一方で、長期化や過度な指しゃぶりには注意が必要です。

4歳以降も頻繁に続く場合

4歳を過ぎても日中頻繁に指しゃぶりをする場合は、少し注意が必要です。この年齢になると、脳は指しゃぶり以外の方法で情緒を調整できるようになっているはずです。それでも指しゃぶりが続く場合、何らかの不安やストレスを抱えている可能性があります。

また、長期間の指しゃぶりは歯並びや顎の発達に影響を及ぼすことがあります。上顎が前に出る開咬や出っ歯などの問題が生じると、咀嚼や発音に影響し、それが脳への感覚フィードバックにも影響する可能性があります。口腔機能の正常な発達は、脳の感覚運動野の発達とも密接に関連しているため、過度な指しゃぶりによる口腔の変形は避けたいところです。

強いストレスサインとしての指しゃぶり

突然指しゃぶりが増えた場合や、指が荒れるほど激しく吸う場合は、強いストレスのサインかもしれません。環境の変化、保育園への入園、兄弟の誕生など、こどもにとって大きな出来事があったときに指しゃぶりが強まることがあります。

このような場合、指しゃぶり自体を無理にやめさせるのではなく、ストレスの原因に対処することが重要です。情緒面でのサポートが不足すると、脳の情動を司る扁桃体が過剰に活性化し、不安や恐怖の感情が増幅されてしまいます。安心できる環境を整えることが、健全な脳の発達には欠かせません。

専門家への相談が必要なタイミングとしては、5歳を過ぎても日中頻繁に指しゃぶりをする、指や口周りに傷ができている、指しゃぶり以外にも気になる行動がある、などの場合が挙げられます。小児科医や歯科医、場合によっては児童心理の専門家に相談することで、適切な対応が見つかります。

このように、状況によっては注意が必要なケースもありますが、多くの場合は適切な対応で自然に改善していきます。

では、脳の発達を妨げずに指しゃぶりに対応するにはどうすればよいのでしょうか。

脳の発達を妨げない指しゃぶりへの対応方法

指しゃぶりへの対応は、年齢と状況に応じて柔軟に行うことが大切です。

2歳頃までは、指しゃぶりを無理にやめさせる必要はまったくありません。この時期の指しゃぶりは発達に必要な行動であり、自然な探索活動の一部です。むしろ、安心して指しゃぶりができる環境を整えることが重要です。無理に手を引っ張ったり、叱ったりすると、こどもは不安を感じ、かえって指しゃぶりが増える可能性があります。

3歳以降で指しゃぶりが続く場合も、焦って禁止する必要はありません。脳の発達には個人差があり、情緒の調整方法を獲得するペースもこどもによって異なります。ただし、少しずつ他の方法で安心感を得られるように促していくことは有効です。

自然に卒業を促す環境づくりとしては、日中の活動を充実させることが効果的です。手を使う遊びや身体を動かす活動を増やすと、指しゃぶりをする時間が自然と減っていきます。絵を描く、粘土遊び、ブロック遊びなど、手指を使う活動は脳の運動野を刺激し、指しゃぶりとは別の形で感覚刺激を得られます。

代替行動の提案も有効です。例えば、不安なときに抱きしめてあげる、お気に入りのぬいぐるみを持たせる、深呼吸を一緒にするなど、指しゃぶり以外の安心方法を提示します。ただし、これらは強制ではなく、選択肢として提示することが大切です。こども自身が「指しゃぶり以外にも安心できる方法がある」と気づくことで、脳は柔軟に新しい行動パターンを学習していきます。

4歳以降で日中も頻繁に指しゃぶりをする場合は、「○○しているときは指を出してみようか」など、具体的な場面で提案してみましょう。絵本を読むとき、食事の前後、お友達と遊ぶときなど、特定の場面から始めると成功しやすくなります。できたときは大いに褒め、自信を持たせることが重要です。

苦味成分が入った指しゃぶり防止の薬剤や、手袋、指に巻く絆創膏などの物理的な方法もありますが、これらは最終手段と考えましょう。物理的に禁止すると、こどもは他の方法で不安を解消しようとし、別の癖が出ることもあります。脳の発達の観点からは、自発的にやめる方向に導くことが理想的です。

このように、対応方法は様々ですが、基本はこどもの情緒を尊重しながら、少しずつ促していくことです。

それでは、親として具体的にどのようなサポートができるのかを見ていきましょう。

指しゃぶりをするこどもの脳の発達を支える親のサポート

親の適切なサポートは、こどもの健全な脳の発達に大きく影響します。

まず、安心できる環境づくりが基本です。こどもが安心感を持てる家庭環境では、過度な指しゃぶりは減少します。十分なスキンシップ、温かい言葉かけ、規則正しい生活リズムなど、基本的な養育環境を整えることが重要です。脳は安定した環境下で最もよく発達します。

発達段階に応じた声かけも大切です。2歳頃までは、指しゃぶりについて特に声をかける必要はありません。3歳以降で気になる場合でも、「指しゃぶりはダメ」という否定的な言葉ではなく、「手を使って遊ぼうか」など、肯定的な提案を心がけましょう。否定的な言葉はこどもの自己肯定感を下げ、情緒の発達に悪影響を及ぼします。

過度な制限がもたらす影響にも注意が必要です。厳しく禁止すると、こどもは隠れて指しゃぶりをするようになったり、爪噛みや髪を抜くなど別の行動に移行したりすることがあります。これは、脳が不安を処理する適切な方法を学べていない状態です。自己調整能力を育てるためには、ある程度の自由と選択肢を与えることが重要です。

日中の充実した活動の重要性も強調しておきたいポイントです。外遊びで身体を動かす、お友達と関わる、新しい経験をするなど、刺激的で楽しい活動は脳を活性化させます。充実した一日を過ごすと、こどもは満足感を得て、情緒が安定します。退屈や刺激不足から指しゃぶりをしている場合は、活動を増やすだけで自然と減っていくことも多いのです。

また、睡眠の質にも注目しましょう。十分な睡眠は脳の発達に不可欠です。寝る前の指しゃぶりは、入眠儀式として機能していることが多く、無理にやめさせると睡眠の質が下がる可能性があります。日中の指しゃぶりが減れば、寝る前だけは許容するという柔軟な対応も一つの方法です。

こどもの指しゃぶりに対して、親が過度に不安になったり、神経質になったりする必要はありません。多くの場合、指しゃぶりは成長とともに自然に消えていく行動です。焦らず、こどものペースを尊重しながら、温かく見守る姿勢が、結果的にこどもの健全な脳の発達を最もよく支えることになるのです。

監修

代表理事
佐々木知香

略歴

2017年 本田右志理事長より右脳記憶教育講座を指南、「JUNKK認定マスター講師」取得
2018年 幼児教室アップルキッズをリビングサロンとして開講
2020年 佐々木進学教室Tokiwaみらい内へ移転、「佐々木進学教室幼児部」として再スタート
2025年 一般社団法人 日本右脳記憶教育協会(JUNKK)代表理事に就任
塾講師として中高生の学習指導に長年携わる中で、幼児期・小学校期の「学びの土台づくり」の重要性を痛感。
結婚を機に地方へ移住後、教育情報や環境の地域間格差を実感し、「地域に根差した実践の場をつくりたい」との想いから、幼児教室アップルキッズを開校。
発達障害や不登校の支援、放課後等デイサービスでの指導、子ども食堂での学習支援など、多様な子どもたちに寄り添う教育活動を展開中。