こどもが突然「いや!」「だめ!」を連発するようになると、親としてはなぜこんなことが起こるのか疑問に思うものです。
昨日まで素直だった我が子が急変してしまい、自分の育て方に問題があったのではないかと不安になる方も少なくありません。
イヤイヤ期がなぜ起こるのかを理解することで、この時期への見方が変わり、より穏やかに対応できるようになります。
この記事では、脳科学や発達心理学の観点から原因を解説し、イヤイヤ期にはなぜ個人差があるのか、なぜ親が大変に感じるのかまで詳しくお伝えします。
イヤイヤ期はなぜ起こるの?発達学的な理由
イヤイヤ期は、脳の発達と自我の芽生えが原因で起こる自然で必要な成長過程です。
最も重要な要因は、前頭前野の発達の遅れにあります。前頭前野は感情をコントロールしたり、理性的な判断をしたりする脳の部位ですが、この部分の成熟は3歳頃まで未完成です。一方で、感情を司る扁桃体は早くから発達しているため、「やりたい」「欲しい」といった感情は強く湧き上がるものの、それをコントロールする力がまだ備わっていないのです。例えば、お菓子を見つけた時に「食べたい!」という強い欲求が生まれても、「夕ご飯前だから我慢する」という理性的判断ができないため、「いや!食べる!」というイヤイヤが始まってしまいます。
自立への欲求と実際の能力のギャップも大きな原因です。1歳半から2歳頃のこどもは、心の中では「自分でやりたい」「自分で決めたい」という強い自立欲求を持っています。しかし、実際の身体能力や技術はまだ未熟で、思うようにできないことばかりです。靴を自分で履きたいのに上手くいかない、ボタンを留めたいのに指が思うように動かない、といった失敗の連続が、こどもにとって大きなストレスとなり、「いや!」という拒否反応として現れるのです。
言語能力の発達との関係も見逃せません。この時期のこどもは、頭の中では複雑な気持ちや要求を持っているにも関わらず、それを適切な言葉で表現する語彙力がまだ不足しています。「もう少し遊んでからお風呂に入りたい」「この服は首が痛くて嫌だ」「お母さんにもっとかまってほしい」といった複雑な気持ちを、「いや」「だめ」という単純な言葉でしか表現できないため、周囲には理解されにくく、さらにイヤイヤがエスカレートしてしまいます。
また、記憶力の発達も関係しています。2歳頃になると、昨日や先週の出来事を覚えていられるようになりますが、時間の概念はまだ曖昧です。「昨日は公園に行けたのに、なぜ今日は行けないの?」「いつもはお菓子を食べられるのに、なぜダメなの?」といった疑問が生まれても、大人のような論理的思考で理解することができず、混乱から「いや!」となってしまうことがよくあります。
さらに、社会性の発達段階も影響しています。この時期のこどもは、まだ「相手の気持ちを考える」ということが発達途中にあります。お母さんが忙しいから静かにしていよう、お友達が使っているから順番を待とう、といった社会的配慮はまだ難しく、自分の欲求が最優先になってしまうのは当然のことです。
睡眠や食事といった基本的な生理現象も、イヤイヤ期の発生に大きく関わっています。疲れている時、お腹が空いている時、眠い時などは、大人でも感情のコントロールが難しくなりますが、こどもの場合はその影響がより顕著に現れます。特に昼寝の時間がずれたり、食事が遅くなったりすると、普段は受け入れられることでも「いや!」となってしまうことが頻繁に起こります。
このように、イヤイヤ期は脳の発達過程において必然的に起こる現象であり、こどもが順調に成長している証拠として理解することが重要です。
しかし、なぜこんなにも激しいイヤイヤになってしまうのでしょうか。
なぜこんなに激しいイヤイヤになるのか?脳科学から見た背景
イヤイヤが激しくなるのは、感情を司る脳の部位が過剰に反応し、理性的なコントロールができない脳の発達状況が原因です。
感情を司る扁桃体の過剰反応が最も大きな要因です。扁桃体は生存のために必要な感情(恐怖、怒り、喜びなど)を生み出す脳の部位で、こどもの頃は特に敏感に反応します。例えば、お気に入りのおもちゃを片付けるよう言われた時、扁桃体は「大切なものが奪われる」という危機信号を発し、まるで生命の危険にさらされたかのような強い感情反応を起こします。そのため、大人から見れば些細なことでも、こどもにとっては重大事件のように感じられ、激しい泣き叫びとなって現れるのです。
理性的思考を司る前頭前野の未発達も激しさに拍車をかけます。大人であれば「少し我慢すれば後でもっと楽しいことがある」「お母さんの言うことには理由がある」といった理性的な判断ができますが、前頭前野が未熟なこどもにはこのような複雑な思考は困難です。感情が高ぶった瞬間の気持ちがすべてとなってしまい、「今すぐこの気持ちをなんとかして!」という切実な思いが、激しいイヤイヤ行動として表現されるのです。
ストレスホルモンであるコルチゾールの分泌も激しさの原因となります。こどもが「いや!」という気持ちになった時、体内では大量のコルチゾールが分泌され、心拍数が上がり、筋肉に力が入り、まさに「戦闘モード」になります。この状態になると、周囲の声が聞こえにくくなったり、冷静な判断ができなくなったりするため、親がどんなに優しく声をかけても、こどもには届かず、さらに激しくなってしまうのです。
感情の言語化ができない歯がゆさも激しさを増幅させます。大人なら「疲れているから今はやりたくない」「不安だから近くにいてほしい」といった複雑な感情を言葉で表現できますが、こどもはそのスキルがまだ不十分です。言いたいことが伝わらない、分かってもらえないという歯がゆさが、さらなる怒りや悲しみを生み出し、激しい感情の爆発となって現れます。例えば、眠くてぐずっているこどもが「まだ遊ぶ!」と言う時、本当は「眠いけど楽しい時間が終わってしまうのが寂しい」という複雑な気持ちを抱えているかもしれません。
神経系の過敏さも関係しています。こどもの神経系は発達途中で非常に敏感な状態にあります。大人には気にならない音や光、肌触り、におい、味などが、こどもにとっては強烈な刺激となることがあります。タグがちくちくする、靴下の縫い目が気持ち悪い、食べ物の温度が微妙に違う、といった些細なことが大きなストレスとなり、それが「いや!」という激しい拒否反応として現れることもあります。
また、エネルギーの消耗も激しさに影響します。感情の嵐が起こると、こどもは大人が想像する以上に体力と精神力を消耗します。そのため、一度イヤイヤが始まると、疲れ果てるまで止まらないことが多く、親から見ると「なぜこんなに長時間泣き続けるのか」と困惑してしまいますが、これもこどもの発達段階では自然なことなのです。
このように、イヤイヤが激しくなるのは脳の発達過程で必然的に起こる現象であり、こどもなりに必死に自分の気持ちを表現しようとしている証拠なのです。
では、なぜこどもによってイヤイヤの程度に違いがあるのでしょうか。
なぜ個人差があるのか?こどもによって違う理由
イヤイヤ期の個人差は、生まれ持った気質・環境要因・発達速度などの複合的な要因によって生まれます。
生まれ持った気質の違いが最も大きな要因です。人には生まれた時から「活動レベル」「反応の強さ」「適応性」「気分の質」「注意の持続性」といった基本的な気質があり、これがイヤイヤ期の現れ方に大きく影響します。例えば、活動レベルが高く反応が強い気質のこどもは、エネルギッシュで感情表現も激しくなりがちで、「いや!」と言う時も全身を使って大きく表現します。一方、活動レベルが低く内向的な気質のこどもは、同じ「嫌だ」という気持ちでも、静かに首を振ったり、黙り込んだりという形で表現することが多くなります。
適応性の違いも個人差に大きく影響します。新しい環境や変化に柔軟に対応できるこどもは、イヤイヤ期も比較的短期間で終わることが多い一方、変化を苦手とするこどもは、小さな変化でもストレスを感じやすく、イヤイヤが長期化したり激しくなったりする傾向があります。例えば、いつもと違う道を通るだけで大泣きしてしまうこどもや、保育園で先生が変わっただけで不安定になってしまうこどもなどは、変化への適応が苦手な気質を持っている可能性があります。
環境要因による影響も見逃せません。家庭の雰囲気、親の関わり方、兄弟構成、保育環境などがイヤイヤ期の現れ方に影響を与えます。例えば、比較的静かで落ち着いた家庭環境で育ったこどもは、イヤイヤも穏やかになることが多い一方、常に忙しく慌ただしい環境にいるこどもは、その緊張感が影響してイヤイヤも激しくなることがあります。また、上の子がいる家庭では、お兄ちゃんやお姉ちゃんの真似をしてイヤイヤが始まることもあれば、逆に上の子が落ち着いているのを見て、比較的スムーズにイヤイヤ期を過ごすこともあります。
言語発達の個人差も大きな要因です。言語発達が早いこどもは、自分の気持ちを比較的早い段階から言葉で表現できるようになるため、「いや」以外の表現方法を身につけやすく、イヤイヤ期が短くなる傾向があります。例えば、2歳前から「あとで」「ちょっと待って」「○○の方がいい」といった表現ができるこどもは、親とのコミュニケーションがスムーズで、激しいイヤイヤになりにくいことが多いです。一方、言語発達がゆっくりなこどもは、気持ちを言葉にする力が追いつかず、「いや」という表現に依存する期間が長くなることがあります。
親の関わり方による変化も個人差を生み出します。一貫した対応を心がけている家庭のこどもは、ルールが明確で安心感があるため、イヤイヤも比較的落ち着いています。一方、対応が日によって変わったり、家族間で対応が異なったりする場合、こどもは混乱してイヤイヤが激しくなったり長期化したりすることがあります。また、過保護すぎる環境では自立の機会が少なく、自己主張が強くなることもあれば、逆に放任すぎる環境では注意を引こうとしてイヤイヤが激しくなることもあります。
体質的な要因も関係します。睡眠のリズムが整いやすいこども、食事をよく食べるこども、病気になりにくいこどもなどは、基本的な生活が安定しているため、イヤイヤも穏やかになりがちです。一方、睡眠が浅い、食が細い、体調を崩しやすいといった体質のこどもは、常に何らかの不調を抱えているため、些細なことでもイヤイヤに発展しやすくなります。
集団生活の経験の有無も影響します。早い時期から保育園に通っているこどもは、集団でのルールを覚えたり、他のこどもとの関わり方を学んだりすることで、家庭でのイヤイヤが減ることがあります。一方、家庭保育中心のこどもは、自分のペースで過ごすことに慣れているため、突然のルールや制約にイヤイヤで反応することが多くなることもあります。
このように、イヤイヤ期の個人差は様々な要因が複合的に作用して生まれるため、他の子と比較せずその子なりの特徴を理解することが大切です。
では、なぜ親はこのイヤイヤ期を大変に感じてしまうのでしょうか。
なぜ親は大変に感じるのか?心理的負担を軽くする考え方
親がイヤイヤ期を大変に感じるのは、予測不可能さと社会的プレッシャーが組み合わさることで心理的負担が増大するためです。
予測不可能さによるストレスが最も大きな要因です。昨日は素直にお風呂に入ったのに今日は大泣き、いつもは好きなおやつなのに今日は「いや!」、朝は機嫌が良かったのに夕方には癇癪、といったように、こどもの反応が予測できないことが親にとって大きなストレスとなります。人間の脳は予測可能な状況では安心感を得られますが、予測不可能な状況では常に緊張状態になり、疲労が蓄積されやすくなります。また、外出の予定があるのにこどもがイヤイヤを始めてしまった時などは、スケジュールが狂ってしまう不安も加わり、さらにストレスが増大します。
社会的プレッシャーの影響も見逃せません。公共の場でこどもがイヤイヤを始めると、周囲の視線が気になったり、「きちんとしつけができていない」と思われるのではないかと不安になったりします。特に電車の中、レストラン、病院の待合室などでは、「迷惑をかけてはいけない」というプレッシャーが強くなり、冷静な対応ができなくなってしまいます。また、SNSや育児情報で「理想的な子育て」の情報に触れることも、「他の人はもっと上手にやっている」という比較の気持ちを生み、自分の対応への自信を失わせてしまいます。
完璧主義思考の弊害も大きな要因です。「良い親なら感情的にならずに対応できるはず」「正しい方法で接すれば必ずイヤイヤは止まるはず」といった思い込みが、現実とのギャップを生み出し、自己嫌悪や罪悪感につながります。実際には、どんなに適切な対応をしても、こどもの発達段階上イヤイヤが続くことは自然なことなのですが、完璧を求めるあまり、自分の対応が悪いからだと自分を責めてしまうのです。
時間的プレッシャーも親の負担を増加させます。朝の忙しい時間、夕食の準備時間、寝る前の時間など、やらなければいけないことが多い時にこどもがイヤイヤを始めると、「時間がない」という焦りが対応を困難にします。こどものペースに合わせてゆっくり対応したいと思っても、現実的には制約があり、その板挟み状態が精神的な負担となります。
継続的な睡眠不足や疲労の蓄積も影響します。イヤイヤ期のこどもの世話は体力的・精神的に消耗が激しく、親自身の疲労が蓄積されています。疲れている時は些細なことでもイライラしやすくなり、普段なら冷静に対応できることでも感情的になってしまいがちです。特に夜泣きが続いていたり、昼寝をしてくれなかったりする時期は、親の心身の余裕がなくなり、イヤイヤ対応がより困難に感じられます。
サポート体制の不足も負担感を増大させます。近くに頼れる家族がいない、パートナーの帰りが遅い、友人も同じように忙しい、といった状況では、一人でイヤイヤ期の対応をしなければならず、孤独感や負担感が強くなります。「誰かに相談したい」「少しでも息抜きをしたい」と思っても、現実的に難しい場合、精神的な余裕を保つことが困難になります。
成長過程への理解不足も要因の一つです。イヤイヤ期が正常な発達過程であることを頭では理解していても、実際に目の前でこどもが激しく泣き叫んでいると、「何か問題があるのではないか」「自分の育て方が間違っているのではないか」という不安が湧いてきます。また、「いつまで続くのか」「本当に終わるのか」といった先の見えない不安も、日々の対応を重く感じさせる要因となります。
このような心理的負担を軽くするためには、まずイヤイヤ期が正常で必要な成長過程であることを深く理解し、完璧な対応を求めずに「今日も一日お疲れさま」と自分を労わる気持ちを持つことが重要です。また、一人で抱え込まずに家族や友人、地域のサポートを積極的に活用し、時には専門家に相談することで、この大変な時期を乗り越えていくことができるでしょう。
このように、親がイヤイヤ期を大変に感じるのには様々な理由があるため、自分自身を責めずに適切なサポートを受けながら、長い目でこどもの成長を見守ることが大切です。
監修

略歴
2017年 | 本田右志理事長より右脳記憶教育講座を指南、「JUNKK認定マスター講師」取得 |
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2018年 | 幼児教室アップルキッズをリビングサロンとして開講 |
2020年 | 佐々木進学教室Tokiwaみらい内へ移転、「佐々木進学教室幼児部」として再スタート |
2025年 | 一般社団法人 日本右脳記憶教育協会(JUNKK)代表理事に就任 |