指しゃぶりの原因とは?心理的・生理的な理由を詳しく解説

指しゃぶり

こどもの指しゃぶりを見て、なぜこのような行動をするのか疑問に思ったことはありませんか。

赤ちゃんが指を吸う姿は自然に見えますが、その背景にはどのような原因があるのか気になります。

単なる癖なのか、それとも何か深い理由があるのか、親として理解しておきたいと思うのは当然のことです。

この記事では、指しゃぶりの生理的な原因から心理的な理由、習慣化するメカニズム、そして個人差が生まれる要因まで詳しく解説します。

指しゃぶりをする生理的な原因

指しゃぶりの生理的な原因は、吸啜反射という本能と口腔感覚による探索欲求であり、脳の発達に根ざした自然な行動です。

吸啜反射のメカニズムとして、赤ちゃんは生まれた時から吸啜反射という原始反射を持っています。これは、口に触れたものを反射的に吸うという生まれつきの能力であり、生存のために不可欠な反射です。この反射は脳幹レベルで制御されており、意識的な学習なしに機能します。口唇や舌に何かが触れると、自動的に吸う動作が始まり、母乳やミルクを飲むことができるのです。

吸啜反射は妊娠15週頃から胎児期に既に発達し始めます。お腹の中にいる時から指を吸う練習をしており、超音波検査で指しゃぶりをしている胎児の姿が観察されることもあります。生まれてすぐに母乳を飲めるのは、この反射が十分に発達しているからです。生後4〜6ヶ月頃までこの反射は強く残り、その後徐々に弱まっていきますが、吸うという行動自体は快感をもたらすため、反射が消えた後も習慣として続くことがあります。

口腔感覚の発達と探索行動も重要な原因です。赤ちゃんにとって、口は最も敏感で発達した感覚器官です。生後数ヶ月の間、赤ちゃんは主に口を使って世界を探索します。手で触るよりも先に、口に入れることで物の形、大きさ、質感、温度などを理解しようとします。これは「口唇期」と呼ばれる発達段階であり、フロイトの心理性的発達理論でも重要な時期とされています。

指しゃぶりは、自分の体を認識する過程でもあります。指を口に入れることで、「これは自分の指だ」「吸うとこういう感じがする」という身体図式を学習しています。手と口の協調運動を練習することにもなり、運動発達の一部でもあります。口腔内の感覚刺激は脳の発達を促進し、感覚統合にも役立っています。

脳の報酬系との関係も指しゃぶりの原因として重要です。吸う行動は、脳内でエンドルフィンやドーパミンといった神経伝達物質の分泌を促します。これらは「快感」や「満足感」をもたらす物質であり、吸うことで気持ち良くなり、リラックスできるのです。この快感が脳に記憶されることで、「吸う=気持ち良い」という学習が成立し、繰り返し行われるようになります。

授乳時に母親との親密な触れ合いとともに吸啜することで、安心感と吸う行動が脳内で結びつきます。そのため、不安な時や寂しい時に指を吸うことで、授乳時の安心感を再現しようとするのです。これは条件付け学習の一種であり、脳が自然に行う学習過程です。

自己鎮静の生理学として、指しゃぶりは自律神経系に影響を与えます。吸う行動はリズミカルで反復的な運動であり、これが副交感神経を活性化させ、心拍数を下げ、リラックス状態をもたらします。大人が深呼吸をして落ち着くのと同様に、赤ちゃんにとって指しゃぶりは生理学的にストレスを軽減する効果があるのです。

また、吸う行動は注意を内側に向ける効果があり、外部の刺激から気をそらすことができます。騒がしい環境や刺激が多い状況で指を吸うことで、過剰な刺激から自分を守り、内的な安定を保とうとします。これは「自己調整」という重要な能力の発達の一部です。

感覚統合の観点からも、指しゃぶりには意義があります。口腔内の感覚刺激は、脳の様々な領域を刺激し、感覚情報の統合を促進します。特に感覚を求めやすい気質のこどもにとって、指しゃぶりは必要な感覚刺激を自分で得る方法なのです。触覚、圧力感覚、固有感覚などが統合され、身体認識や空間認識の発達につながります。

このように、指しゃぶりの生理的原因は、生存本能から始まり、脳の発達、感覚の探索、自己調整能力の獲得と、多岐にわたる生物学的基盤に支えられています。

生理的原因に加えて、心理的な側面も指しゃぶりの重要な原因です。

指しゃぶりをする心理的な原因

指しゃぶりの心理的な原因は、安心感への欲求と感情調整の学習過程にあり、こどもの心の発達と密接に関係しています。

安心感と愛着の形成が最も基本的な心理的原因です。赤ちゃんは生まれてから、主に母親(または主な養育者)との関わりを通じて、基本的信頼感を形成していきます。授乳の際、母親に抱かれながら吸啜することで、温もり、安心感、満足感が一体となった経験をします。この経験が繰り返されることで、「吸う」という行動が「安心」と強く結びつきます。

指しゃぶりは、この授乳時の安心感を再現する手段なのです。母親がそばにいない時、不安な時に指を吸うことで、あたかも母親に抱かれているかのような安心感を得ようとします。これは「過渡対象」という概念にも関連しており、母親から心理的に少し離れる過程で、自分を慰める方法として指しゃぶりが機能します。

愛着理論の観点から見ると、指しゃぶりは安全基地である母親がいない時の「自己慰撫」行動です。こどもは成長とともに、母親から物理的に離れて探索する時間が増えますが、その際に不安を感じると、指しゃぶりで自分を落ち着かせます。これは健全な愛着形成の一部であり、徐々に自立していく過程で自然に見られる行動です。

不安やストレスへの対処も重要な心理的原因です。こどもは日々、様々な不安やストレスを経験します。見知らぬ人への人見知り、母親と離れる時の分離不安、新しい環境への適応、友達とのトラブル、親に叱られた時の悲しみなど、こどもなりのストレスは数多くあります。これらのストレスに対処する方法がまだ十分に発達していないこどもにとって、指しゃぶりは最も確実で、自分でコントロールできるストレス対処法なのです。

特に大きな環境変化がある時、指しゃぶりが増えるのはこのためです。引っ越し、転園、下の子の誕生、家族の病気など、こどもの生活に変化がある時、不安やストレスが高まり、指しゃぶりで心のバランスを保とうとします。一度やめていた指しゃぶりが再開することもあり、これはこどもがストレスを感じているサインとして理解することができます。

退屈や刺激不足も指しゃぶりの原因となります。特に何もすることがない時、テレビを見ている時、車に乗っている時など、手持ち無沙汰な状況で無意識に指を吸ってしまうことがあります。この場合の指しゃぶりは、不安というよりも退屈を紛らわせる手段であり、何か刺激を求めている状態です。

適度な刺激がない環境では、こどもは自分で刺激を作り出そうとします。指しゃぶりは自分で容易に作り出せる感覚刺激であり、退屈な時間を埋める方法として機能します。他に興味を引く活動がある時は指しゃぶりをせず、退屈な時だけ吸う場合、これが主な原因と考えられます。

感情調整の学習過程も指しゃぶりの重要な心理的原因です。赤ちゃんは最初、泣くことでしか不快を表現できませんが、成長とともに自分で自分の感情を調整する方法を学んでいきます。指しゃぶりは、その最初の自己調整方法であり、感情調整能力の発達の第一歩なのです。

怒り、悲しみ、不安といった負の感情を経験した時、指を吸うことでそれらの感情を和らげることを学びます。これは「自己鎮静」と呼ばれる能力であり、将来的により成熟した感情調整方法(深呼吸、言葉で表現する、他の活動で気を紛らわせるなど)を身につけるための基礎となります。

また、興奮しすぎた時に落ち着く方法としても機能します。楽しいことがあって興奮状態にある時、指しゃぶりで少し落ち着きを取り戻すことがあります。これは、覚醒レベルを調整する能力の一部であり、適度な覚醒状態を保つための方法を学んでいる過程です。

自己効力感の形成にも関わっています。「自分で自分を落ち着かせることができる」という経験は、こどもに「自分にはできる」という感覚を与えます。これは自己効力感の基礎であり、将来の自信や自律性の発達につながる重要な経験です。ただし、指しゃぶりに過度に依存すると、他の対処方法を学ぶ機会が減るため、適切な時期に卒業することも大切です。

このように、指しゃぶりの心理的原因は、安心感への欲求、ストレス対処、感情調整の学習と、こどもの心の健全な発達に深く関わっています。

これらの原因が繰り返されることで、指しゃぶりは習慣として定着していきます。

指しゃぶりが習慣化する原因

指しゃぶりが習慣化するのは、繰り返しによる脳の学習と特定の状況との結びつきにより、自動的な行動パターンとして定着するからです。

繰り返しによる脳の学習が習慣化の基本的なメカニズムです。脳は繰り返される行動を「パターン」として記憶し、効率化しようとします。指しゃぶりを何度も行うことで、その行動パターンが脳の神経回路に刻まれていきます。これは「神経可塑性」と呼ばれる脳の性質によるものです。

最初は意識的に、あるいは反射的に行われていた指しゃぶりも、繰り返すうちに無意識的に、自動的に行われるようになります。これは習慣のメカニズムそのものであり、「きっかけ→行動→報酬」というループが脳に定着することで起こります。例えば、「眠い(きっかけ)→指を吸う(行動)→落ち着く(報酬)」というループが何度も繰り返されることで、眠いと自動的に指を吸うようになります。

大脳基底核という脳の部位が習慣形成に重要な役割を果たしています。繰り返される行動パターンはここに記憶され、意識的な思考を介さずに実行できるようになります。これにより、指しゃぶりは「考えずにしてしまう」行動になるのです。

特定の状況との結びつきも習慣化の大きな原因です。指しゃぶりは多くの場合、特定の状況や時間帯と強く結びついています。最も典型的なのが、眠りに入る時です。寝る前に指を吸うことが何度も繰り返されると、「眠る=指を吸う」という結びつきが脳に形成されます。その結果、眠ろうとすると自動的に指を吸う行動が起こるようになります。

他にも、車に乗る時、テレビを見る時、ママがいない時など、特定の状況と指しゃぶりが結びつくことがあります。これを「文脈依存性」といい、特定の文脈(状況)が指しゃぶりのトリガー(引き金)となるのです。この結びつきが強いほど、その状況になると自動的に指を吸ってしまいます。

寝る前のルーティン化は最も習慣化しやすいパターンです。眠りに入る時の指しゃぶりは、特に習慣化しやすく、やめるのも難しい傾向があります。これは、睡眠という生理的な状態変化と指しゃぶりが強く結びついているためです。眠りに入るための一連の手順(歯磨き→着替え→ベッドに入る→指を吸う→眠る)として定着すると、その手順を変えることは難しくなります。

また、指しゃぶりをしながら眠りに入ることが何度も繰り返されると、指しゃぶりなしでは眠れないと脳が学習してしまうことがあります。これは「入眠儀式」と呼ばれ、特定の行動がないと眠れなくなる状態です。夜中に目が覚めた時も、再び眠るために指を吸う必要があると感じることがあります。

依存のメカニズムも習慣化に関わっています。指しゃぶりによる快感や安心感が繰り返し得られることで、その行動への依存が形成されることがあります。ストレスや不安を感じた時、他の方法ではなく、真っ先に指しゃぶりに頼るようになると、依存が強まります。

心理的依存として、「指を吸わないと落ち着かない」という感覚が生まれます。実際には他の方法でも落ち着けるのに、指しゃぶりが最も確実で手軽な方法として認識されているため、それに頼ってしまうのです。この依存が強いほど、やめることが難しくなります。

無意識の行動として定着することも習慣化の特徴です。習慣化が進むと、指しゃぶりは無意識のうちに行われるようになります。テレビを見ながら、絵本を読みながら、ぼんやりしている時など、本人も気づかないうちに指を吸っていることがあります。これは、行動が完全に自動化されている証拠です。

無意識の行動をやめるのは、意識的な行動をやめるよりも難しいとされています。本人が「吸っている」ことに気づいていないため、「やめよう」という意識も働きにくいのです。そのため、無意識の指しゃぶりには、まず本人に気づかせることから始める必要があります。

周囲の反応も習慣化に影響します。指しゃぶりに対する周囲の反応によって、習慣が強化されることもあります。親が「指を吸っている」ことに過度に反応すると、こどもはそれで注目を得られると学習し、注目を引く手段として指しゃぶりを使うことがあります。逆に、完全に無視しすぎても、自分で気づく機会がなく、習慣が続くこともあります。

このように、指しゃぶりの習慣化は、脳の学習メカニズム、状況との結びつき、依存の形成、無意識化といった複数の要因が絡み合って起こります。

同じように指しゃぶりの原因があっても、個人によって大きな差が生まれます。

個人差が生まれる原因

指しゃぶりの個人差は、生まれつきの気質、感覚の敏感さ、環境要因、遺伝的要因など、複数の要素が組み合わさって生まれます。

気質と感覚の敏感さが個人差の大きな要因です。こどもの気質は生まれつきの性質であり、大きく分けて「扱いやすい気質」「扱いにくい気質」「スローウォームアップ気質」などに分類されます。不安を感じやすい、新しいことに慎重、刺激に敏感といった気質のこどもは、安心を求めて指しゃぶりをしやすく、長く続ける傾向があります。

感覚の敏感さ、特に触覚や口腔感覚の敏感さも影響します。感覚統合の観点から、感覚を求めやすいこども(感覚探求型)は、口腔刺激を求めて指しゃぶりをしやすい傾向があります。逆に、感覚に鈍感なこどもは、それほど指しゃぶりをしないこともあります。また、触覚防衛反応が強いこども(触られるのを嫌がる)は、自分の指は受け入れやすく、指しゃぶりを好むことがあります。

神経学的な違いも関係しています。脳の報酬系の感受性、セロトニンやドーパミンといった神経伝達物質のバランス、扁桃体(不安や恐怖を処理する部位)の活性度などの個人差が、指しゃぶりの頻度や強さに影響します。不安を感じやすい脳の作りを持つこどもは、それを和らげるために指しゃぶりに頼りやすくなります。

授乳方法との関係も個人差の原因となります。母乳育児か人工乳育児か、授乳の頻度や時間、授乳スタイルなどによって、吸啜欲求の満たされ方が異なります。母乳育児で十分に時間をかけて授乳しているこどもは、吸啜欲求が満たされ、指しゃぶりが少ない傾向があるとされています。

一方、哺乳瓶の乳首の穴が大きくてすぐに飲み終わってしまう、授乳時間が短いといった場合、吸いたい欲求が残り、指しゃぶりで補おうとすることがあります。また、早期に断乳した場合、まだ吸啜欲求が残っている段階で母乳やミルクを飲めなくなり、代わりに指しゃぶりが増えることもあります。

ただし、授乳方法だけで指しゃぶりが決まるわけではなく、あくまで多くの要因の一つであることに注意が必要です。完全母乳でも指しゃぶりをする子もいれば、人工乳でも全くしない子もいます。

環境要因の影響も大きな個人差の原因です。家庭環境、親子関係、兄弟姉妹の有無、保育園への通園状況など、様々な環境要因が指しゃぶりに影響します。安定した家庭環境で、親との愛着が十分に形成されているこどもは、指しゃぶりへの依存が少ない傾向があります。

逆に、親が忙しくてこどもと過ごす時間が少ない、家庭内に緊張や不和がある、下の子が生まれて上の子への関心が減ったといった状況では、こどもは不安を感じやすく、指しゃぶりで安心を求めることが増えます。また、過保護すぎる環境も、自分で不安に対処する力が育ちにくく、指しゃぶりに頼りやすくなることがあります。

兄弟姉妹の影響も無視できません。上の子が指しゃぶりをしているのを見て、下の子が真似して始めることがあります。また、下の子が生まれた時の赤ちゃん返りとして、上の子が指しゃぶりを再開することもよくあります。

遺伝的な要因も個人差に関わっています。研究によると、指しゃぶりには遺伝的な要素があることが示唆されています。親が幼少期に指しゃぶりをしていた場合、こどもも指しゃぶりをする確率が高いとされています。これは、気質や感覚の敏感さといった、遺伝しやすい特性が影響しているためと考えられます。

また、歯並びや顎の形といった解剖学的な特徴も遺伝します。指を吸いやすい口の形、前歯の角度などが遺伝的に受け継がれることで、指しゃぶりのしやすさに差が生まれることがあります。ただし、遺伝だけですべてが決まるわけではなく、環境との相互作用が重要です。

発達のペースも個人差の原因です。言語発達、運動発達、社会性の発達のペースは個人によって大きく異なります。言葉が早く発達したこどもは、不安や欲求を言葉で表現できるため、指しゃぶりが早くやめる傾向があります。逆に、言語発達がゆっくりなこどもは、言葉以外の方法(指しゃぶりなど)で感情を表現する期間が長くなります。

また、自己調整能力や衝動コントロールの発達にも個人差があります。これらの能力が早く発達するこどもは、指しゃぶりをやめることも比較的容易ですが、発達がゆっくりなこどもは、指しゃぶりに長く頼ることがあります。

性別による傾向も若干あります。統計的には、女の子の方が男の子より指しゃぶりをする割合が若干高いとする研究もありますが、個人差の方がはるかに大きいため、性別だけで判断することはできません。

このように、指しゃぶりの個人差は、生まれつきの気質、感覚の特性、授乳経験、環境、遺伝、発達のペースなど、多様な要因が複雑に絡み合って生まれます。そのため、他の子と比較して焦る必要はなく、その子の個性として理解し、適切な時期に適切な対応をすることが大切なのです。

監修

代表理事
佐々木知香

略歴

2017年 本田右志理事長より右脳記憶教育講座を指南、「JUNKK認定マスター講師」取得
2018年 幼児教室アップルキッズをリビングサロンとして開講
2020年 佐々木進学教室Tokiwaみらい内へ移転、「佐々木進学教室幼児部」として再スタート
2025年 一般社団法人 日本右脳記憶教育協会(JUNKK)代表理事に就任
塾講師として中高生の学習指導に長年携わる中で、幼児期・小学校期の「学びの土台づくり」の重要性を痛感。
結婚を機に地方へ移住後、教育情報や環境の地域間格差を実感し、「地域に根差した実践の場をつくりたい」との想いから、幼児教室アップルキッズを開校。
発達障害や不登校の支援、放課後等デイサービスでの指導、子ども食堂での学習支援など、多様な子どもたちに寄り添う教育活動を展開中。