指しゃぶりが歯並びに与える影響は?出っ歯・開咬へのリスクは

指しゃぶり

こどもの指しゃぶりを見て、歯並びへの影響が心配になっている親御さんは多いのではないでしょうか。

かわいらしい習慣ではあるものの、長く続けると前歯が出てきたり、噛み合わせが悪くなったりするという話を聞くと不安になります。

実際のところ、指しゃぶりは歯並びにどの程度影響するのか、いつまでに止めれば大丈夫なのかを知りたいと思うのは当然のことです。

この記事では、指しゃぶりが歯並びに与える影響から、予防方法、既に影響が出ている場合の対処法、そして長期的な視点での考え方まで詳しく解説します。

指しゃぶりが歯並びに与える影響とは

指しゃぶりは長期間続けると出っ歯や開咬などの影響が出ますが、4歳頃までにやめれば多くの場合自然に改善可能です。

具体的な歯並びへの影響として、最も代表的なのが上顎前突、いわゆる出っ歯です。指を吸うことで、上の前歯が前方に押し出され、下の前歯が後方に押し込まれる力が継続的にかかります。その結果、上の前歯が突出し、下の前歯との間に大きな隙間ができます。この状態が続くと、横から見た時に口元が前に出ている印象になります。

開咬も指しゃぶりによる代表的な影響です。開咬とは、奥歯は噛んでいるのに上下の前歯が噛み合わず、隙間が空いている状態を指します。指を吸う時、指が前歯の間に挟まるため、上下の前歯の間に常に隙間ができる力がかかり続けます。その結果、奥歯で噛んでも前歯が閉じない状態になってしまいます。開咬があると、食べ物を前歯で噛み切ることが難しくなり、発音(特にサ行、タ行)にも影響することがあります。

歯列の狭窄も起こり得る影響です。指しゃぶりにより、上顎の歯列が内側に狭まり、V字型になることがあります。通常、上顎の歯列は緩やかなU字型をしていますが、指しゃぶりの圧力により形が変わってしまうのです。歯列が狭くなると、永久歯が生えるスペースが不足し、歯が重なって生えたり、八重歯になったりするリスクが高まります。

交叉咬合という問題も生じることがあります。これは、上下の歯の噛み合わせが左右でずれている状態です。特定の指(親指など)を吸い続けることで、片側に偏った力がかかり、顎の成長が左右非対称になることがあります。交叉咬合は、顎の成長や顔の対称性にも影響する可能性があります。

影響が出る時期と期間について、一般的に、3歳頃までの指しゃぶりは歯並びに大きな影響を与えないとされています。これは、この時期はまだ乳歯の段階であり、骨や歯も柔らかく、指しゃぶりをやめれば自然に元に戻る可能性が高いためです。しかし、3歳を過ぎて、特に4歳以降も頻繁に指しゃぶりを続けている場合、歯並びへの影響が出始めるリスクが高まります。

永久歯が生え始める6歳頃までに指しゃぶりをやめることが重要な目安とされています。永久歯が生えてくる時期も指しゃぶりを続けていると、永久歯の生える方向や位置に影響を与え、矯正治療が必要になる可能性が高まります。頻度と時間も影響の度合いを左右します。一日中頻繁に吸っている場合と、寝る時だけ吸っている場合では、歯並びへの影響の度合いが異なります。

乳歯と永久歯での違いとして、乳歯の時期の歯並びへの影響は、比較的可逆的です。つまり、指しゃぶりをやめれば、自然に元の位置に戻ることが多いのです。乳歯の周りの骨はまだ柔らかく、可塑性が高いため、不適切な力がかからなくなれば、正常な位置に戻ろうとする力が働きます。

しかし、永久歯が生え始める時期や、永久歯が生えた後も指しゃぶりを続けている場合、影響はより深刻で、自然には改善しにくくなります。永久歯は乳歯より大きく、周りの骨も硬くなっているため、一度不適切な位置に生えてしまうと、矯正治療が必要になる可能性が高まります。

個人差の要因も理解が必要です。同じように指しゃぶりをしていても、歯並びへの影響には個人差があります。吸う力の強さ、吸う頻度と時間、どの指を吸うか(親指、人差し指など)、吸う時の舌の位置、顎の骨の硬さや成長のパターン、遺伝的な歯並びの要因などが影響します。また、元々の歯並びや骨格によっても、影響の出方は異なります。

指しゃぶり以外の癖との相互作用もあります。指しゃぶりと同時に、舌を前に出す癖(舌突出癖)、口呼吸、頬杖をつく癖などがある場合、歯並びへの影響はより大きくなります。これらの癖が複合的に作用することで、歯や顎への不適切な力が強まるためです。

このように、指しゃぶりは歯並びに影響を与える可能性がありますが、時期や頻度によって影響の度合いは大きく異なります。

では、歯並びへの影響を防ぐためにはどうすればよいのでしょうか。

歯並びへの影響を防ぐために

歯並びへの影響を防ぐには、3〜4歳頃から段階的に指しゃぶりを減らし、遅くとも永久歯が生える前にやめることが重要です。

やめるべき時期の目安として、理想的には3歳頃から日中の指しゃぶりを減らし始め、4歳までには日中はほぼやめている状態を目指します。4歳を過ぎても頻繁に指しゃぶりをしている場合は、積極的にやめる働きかけを始める時期です。遅くとも、永久歯が生え始める6歳頃までにはやめることが、歯並びへの影響を最小限にするために重要です。

ただし、これはあくまで目安であり、こどもの発達状況や心理状態を最優先に考える必要があります。無理やりやめさせてストレスが増えると、別の問題が生じることもあるため、バランスが大切です。

段階的なやめさせ方として、いきなり完全に禁止するのではなく、少しずつ減らしていくことが効果的です。まず、日中起きている時の指しゃぶりを減らすことから始めます。「お外にいる時は吸わないようにしようね」「ご飯の時は吸わないね」といった具合に、場面や時間を限定して減らしていきます。

次の段階として、家の中でも日中は吸わないことを目指します。「起きている時間は吸わないで、寝る時だけにしようね」と、寝る時だけ許可する期間を設けます。最終的には、寝る時も吸わないことを目指しますが、これは最も難しいステップなので、焦らず時間をかけて進めます。

こどもの気持ちを聞くことも重要です。「指を吸うとどんな気持ちになるの?」「どんな時に吸いたくなるの?」と聞くことで、こども自身が自分の行動を意識するようになります。また、「指を吸わない方が歯のためにも良いんだよ」と、年齢に応じて理由を説明することも効果的です。

代替行動の提案も有効な方法です。指しゃぶりで得ていた安心感を、他の方法で得られるよう提案します。お気に入りのぬいぐるみを抱く、柔らかいブランケットを触る、手に持てるおもちゃを握るといった代替行動を提案します。また、不安な時は「お母さんに言ってね」「抱っこしようね」と、親に甘える方法を教えることも効果的です。

褒めて伸ばす方法が最も効果的です。指を吸わずにいられた時間があれば、「すごい!30分も吸わないでいられたね!」と具体的に褒めます。完全にやめなくても、少しでも減った、少しの時間でもやめられたことを認めて褒めることで、こどもは自信を持ち、さらに頑張ろうという気持ちになります。

歯科医への相談タイミングとして、以下のような場合は、早めに小児歯科医に相談することをお勧めします。4歳を過ぎても日中頻繁に指しゃぶりをしている、既に前歯が前に出てきている、上下の歯の間に隙間がある(開咬の兆候)、歯並びが気になる、やめさせ方についてアドバイスが欲しい、といった状況です。

歯科医は、現在の歯並びの状態を専門的に評価し、指しゃぶりの影響について説明してくれます。また、やめるためのアドバイスや、必要に応じて専用の装置(マウスピースなど)を提案してくれることもあります。さらに、定期的な検診を受けることで、歯並びの変化を早期に発見し、適切な対応ができます。

予防的なアプローチも大切です。指しゃぶりが習慣化する前、つまり1〜2歳頃から、手を使う遊びを増やす、退屈しないよう活動を充実させる、不安な時は抱っこなどで安心させるといった工夫をすることで、指しゃぶりへの依存を減らすことができます。

睡眠環境を整えることも有効です。寝る時の指しゃぶりが多い場合、寝る前の新しいルーティン(絵本を読む、背中をさする、子守唄を歌うなど)を作ることで、指しゃぶりなしでも眠れる方法を身につけます。また、十分な睡眠時間を確保することで、疲労からくる指しゃぶりを減らすことができます。

口腔習癖の専門家への相談も選択肢です。指しゃぶりがなかなかやめられない場合、言語聴覚士や口腔機能の専門家に相談することも検討できます。これらの専門家は、口腔の感覚や筋肉の使い方についてアドバイスしてくれ、適切な感覚刺激を提供する方法を教えてくれます。

このように、段階的なアプローチと専門家のサポートにより、歯並びへの影響を予防することができます。

しかし、既に歯並びに影響が出ている場合はどうすればよいのでしょうか。

既に歯並びに影響が出ている場合の対処

既に歯並びに影響が出ている場合は、小児歯科医に相談し、必要に応じて適切な時期に矯正治療を検討することが重要です。

小児歯科での診察では、まず現在の歯並びの状態を詳しく評価します。前歯の突出度、上下の歯の噛み合わせ、歯列の形、顎の成長のバランスなどを総合的に診察し、指しゃぶりによる影響の程度を判断します。レントゲン撮影により、骨の状態や永久歯の位置なども確認することがあります。

診察の結果、軽度の影響であれば、「まず指しゃぶりをやめて様子を見ましょう」というアドバイスが出ることが多いです。乳歯の時期であれば、指しゃぶりをやめることで自然に改善する可能性が高いためです。定期的に経過を観察し、改善の度合いを確認していきます。

矯正治療の必要性について、以下のような場合は矯正治療が必要になる可能性があります。指しゃぶりをやめても歯並びが改善しない、永久歯が生え始めたが、不適切な位置に生えている、開咬が顕著で食事や発音に支障がある、顎の成長に左右差がある(交叉咬合など)、審美的な問題が大きい、といった状況です。

矯正治療には様々な方法があります。乳歯と永久歯が混在する時期(混合歯列期)には、取り外し可能な装置や、部分的な固定装置を使用することがあります。永久歯が生え揃ってからは、本格的な矯正治療(ブラケットとワイヤーを使った矯正など)が必要になることもあります。

治療を始める適切な時期として、矯正治療のタイミングは、歯並びの状態や不正咬合の種類によって異なります。一般的に、骨格的な問題(顎の成長のバランスなど)がある場合は、早期(6〜7歳頃)から治療を始めることが推奨されます。これは、顎の成長をコントロールしやすい時期に介入することで、より良い結果が得られるためです。

歯の位置だけの問題であれば、永久歯が生え揃う12〜13歳頃から本格的な矯正治療を始めることが一般的です。ただし、これはあくまで目安であり、個々のケースによって最適なタイミングは異なるため、歯科医との相談が不可欠です。

日常的なケアも重要です。矯正治療中はもちろん、治療前も治療後も、日常的な口腔ケアが大切です。丁寧な歯磨きで虫歯を予防する、定期的に歯科検診を受ける、フッ素塗布などの予防処置を受けるといったケアが必要です。

また、指しゃぶりを完全にやめることが何より重要です。矯正治療をしても、指しゃぶりを続けていれば、再び歯並びが悪化してしまいます。矯正治療を始める前に、必ず指しゃぶりをやめることが前提となります。

舌の癖への対処も必要な場合があります。指しゃぶりをやめても、舌を前に出す癖(舌突出癖)が残っていると、歯並びへの悪影響が続きます。この場合、筋機能療法(MFT)という、舌や口の周りの筋肉を正しく使うためのトレーニングが必要になることがあります。

口呼吸の改善も歯並びには重要です。口呼吸は歯並びや顎の成長に悪影響を与えます。鼻づまりがある場合は耳鼻科で治療を受ける、意識的に鼻呼吸を心がける、といった対応が必要です。

経済的な準備も考慮が必要です。矯正治療は費用がかかる場合が多いため、経済的な準備も必要です。保険適用の範囲、治療費の総額、支払い方法などについて、事前に歯科医に確認しておくことをお勧めします。一部のケースでは、保険が適用されることもあります。

このように、既に影響が出ている場合でも、適切な時期に適切な治療を受けることで、改善が可能です。

して、指しゃぶりと歯並びについては、長期的な視点を持つことも大切です。

指しゃぶりと歯並びの長期的な視点

指しゃぶりと歯並びの問題は、長期的な視点を持ち、永久歯への影響を最小限にすること、そしてこどもの心理面にも配慮することが重要です。

永久歯への影響を考えると、最も重要なのは、永久歯が生える前に指しゃぶりをやめることです。永久歯は一生使う歯であり、位置や方向が決まってしまうと、後から変えるのは困難です。6歳頃から生え始める永久歯が、正しい位置に生えるよう、それまでに指しゃぶりをやめることが理想的です。

永久歯の生え方を見守ることも大切です。6歳臼歯(第一大臼歯)が生える頃から、定期的に歯科検診を受け、永久歯が正しい位置に生えているか確認してもらいます。前歯が生え変わる時期(6〜8歳頃)も重要な時期であり、この時期の歯並びをチェックすることで、将来の矯正治療の必要性を予測できます。

自然な改善の可能性について、乳歯の時期に指しゃぶりの影響が出ていても、永久歯が生える前に指しゃぶりをやめれば、多くの場合自然に改善します。永久歯は乳歯より大きく、生えてくる力も強いため、正常な位置に向かって成長しようとする力があります。ただし、改善の度合いには個人差があり、全てのケースで完全に元に戻るわけではありません。

定期的な観察が重要です。指しゃぶりをやめた後も、定期的に歯科検診を受け、歯並びの変化を観察することが大切です。改善が見られれば安心ですが、改善が不十分な場合は、適切な時期に矯正治療を検討します。

専門家との連携として、歯科医だけでなく、必要に応じて他の専門家とも連携することが効果的です。小児科医:全般的な発達状態の確認、臨床心理士:指しゃぶりの心理的背景への対応、言語聴覚士:口腔機能や舌の使い方の改善、耳鼻科医:鼻づまりなど呼吸の問題への対応、といった多角的なアプローチが、総合的な問題解決につながります。

心理面への配慮も忘れてはいけません。歯並びを気にするあまり、こどもを過度に叱ったり、プレッシャーをかけたりすると、かえってストレスが増えて指しゃぶりが強化されたり、自己肯定感が低下したりする可能性があります。歯並びも大切ですが、こどもの心の健康が最優先です。

審美的な問題への対応として、歯並びが気になることで、こども自身が笑顔を見せなくなったり、人前で話すのを嫌がったりすることがあります。このような場合は、心理的なサポートとともに、適切な時期に矯正治療を検討することが、こどもの自信を取り戻すために重要です。

親の不安を軽減することも大切です。歯並びへの影響を心配するあまり、親が過度に不安になると、その不安がこどもにも伝わります。「きっと良くなる」「専門家と相談しながら進めれば大丈夫」という前向きな気持ちを持つことが、こどもにとっても親にとっても良い結果につながります。

将来への希望を持つことで、今の不安も和らぎます。現代の歯科医療は進歩しており、適切な時期に適切な治療を受ければ、ほとんどのケースで良好な歯並びを獲得できます。また、多くのこどもが、指しゃぶりをやめることで、自然に歯並びが改善しています。焦らず、専門家と相談しながら、一歩ずつ進めていきましょう。

予防の重要性を再確認することも大切です。これから赤ちゃんを育てる方、まだ指しゃぶりが習慣化していない段階の方は、早い段階から予防的なアプローチを取ることで、将来の歯並びへの影響を最小限にできます。適切な時期に適切な対応をすることが、何より重要なのです。

このように、指しゃぶりと歯並びの問題は、長期的な視点を持ち、専門家と連携しながら、こどもの心身の健康を最優先に考えて対応することが大切です。歯並びは確かに重要ですが、それ以上に、こどもが健やかに、自信を持って成長していくことが何より大切なのです。

監修

代表理事
佐々木知香

略歴

2017年 本田右志理事長より右脳記憶教育講座を指南、「JUNKK認定マスター講師」取得
2018年 幼児教室アップルキッズをリビングサロンとして開講
2020年 佐々木進学教室Tokiwaみらい内へ移転、「佐々木進学教室幼児部」として再スタート
2025年 一般社団法人 日本右脳記憶教育協会(JUNKK)代表理事に就任
塾講師として中高生の学習指導に長年携わる中で、幼児期・小学校期の「学びの土台づくり」の重要性を痛感。
結婚を機に地方へ移住後、教育情報や環境の地域間格差を実感し、「地域に根差した実践の場をつくりたい」との想いから、幼児教室アップルキッズを開校。
発達障害や不登校の支援、放課後等デイサービスでの指導、子ども食堂での学習支援など、多様な子どもたちに寄り添う教育活動を展開中。