イヤイヤ期のこどもが突然赤ちゃんのような行動を取り始めて、困惑している親御さんは少なくありません。
これまでできていたことを「できない」と言ったり、甘えん坊になったり、まるで年齢が逆戻りしたような行動に戸惑うものです。
イヤイヤ期と赤ちゃん返りが同時に起こることは珍しくなく、それぞれに適した理解と対応が必要です。
この記事では、なぜこの時期に赤ちゃん返りが起こるのか、その原因から具体的な対応方法、予防策まで詳しく解説します。
イヤイヤ期に赤ちゃん返りが起こるのはなぜ?原因とメカニズム
イヤイヤ期に赤ちゃん返りが起こるのは、環境変化や不安に対するこどもの自然な防御反応として起こる現象です。
最も大きな原因は、下の子の誕生による心理的影響です。これまで両親の愛情を独占していたこどもにとって、下の子の存在は大きな脅威となります。赤ちゃんが泣くとすぐにお母さんが駆けつける、授乳で長時間お母さんを占有する、来客が赤ちゃんばかりを可愛がるといった状況を目にすると、「赤ちゃんの方が愛されている」「自分は必要とされていない」という不安を感じます。そこで、「自分も赤ちゃんになれば、同じように愛情をもらえるのではないか」という心理が働き、赤ちゃんのような行動を取り始めるのです。
イヤイヤ期と重なる時期の特徴も影響しています。2歳前後は自我が芽生える時期でありながら、まだ情緒的に不安定な段階にあります。自分でやりたい気持ちと、まだ甘えたい気持ちが同居している複雑な時期に、下の子の誕生という大きな変化が加わることで、混乱が生じやすくなります。「お兄ちゃん・お姉ちゃんになりなさい」と期待される一方で、心の中では「まだ甘えたい」という気持ちが強く残っているため、葛藤から赤ちゃん返りという形で表現されるのです。
注意を引きたい気持ちも大きな要因です。下の子が生まれると、どうしても親の注意が赤ちゃんに向きがちになります。上の子は「自分も見てほしい」「構ってほしい」という気持ちから、注意を引く手段として赤ちゃん返りを選択することがあります。例えば、これまで一人でできていた着替えや食事を「できない」と言ってお母さんに手伝ってもらおうとしたり、おむつを履きたがったり、哺乳瓶でミルクを飲みたがったりします。
発達の一時的な逆行現象という側面もあります。新しいスキルを習得する過程で、一時的に以前のレベルに戻ることは発達心理学では正常な現象として知られています。イヤイヤ期は言語能力や社会性が急激に発達する時期でもあるため、その反動として赤ちゃんのような安全で単純な行動パターンに戻ろうとすることがあります。
環境の大きな変化に対する不安も原因となります。下の子の誕生以外にも、引っ越し、保育園の入園、家族構成の変化などがあると、こどもは不安定になり、より安心できる赤ちゃん時代の行動に戻ろうとします。特に、変化に敏感な気質のこどもは、小さな環境の変化でも赤ちゃん返りを起こすことがあります。
親の関心の分散による寂しさも大きな要因です。下の子のお世話で忙しくなった親が、上の子との時間を十分に取れなくなると、こどもは寂しさを感じ、「赤ちゃんみたいになれば、もっと構ってもらえる」と考えるようになります。また、親が疲労やストレスを抱えていると、その緊張感がこどもにも伝わり、不安から赤ちゃん返りが起こることもあります。
模倣行動としての側面もあります。下の子が泣く、授乳する、おむつを替えるといった場面を毎日目にしているうちに、「自分もやってみたい」「自分にもそうしてほしい」という気持ちが生まれ、赤ちゃんの行動を真似するようになることがあります。これは決して退行ではなく、こどもなりに状況を理解し、対処しようとする行動でもあります。
このように、イヤイヤ期の赤ちゃん返りは環境変化や心理的不安に対する自然な反応であり、こどもなりの適応戦略として理解することが重要です。
では、赤ちゃん返りとイヤイヤ期にはどのような違いがあるのでしょうか。
赤ちゃん返りとイヤイヤ期の違いと見分け方
赤ちゃん返りとイヤイヤ期には、行動の動機や現れ方に明確な違いがあり、それぞれの特徴を理解することで適切な対応ができます。
赤ちゃん返りの具体的な行動パターンとして、これまでできていたことを「できない」と言って甘える行動が特徴的です。例えば、一人で着替えができていたのに「お母さんが着せて」と言ったり、自分で歩いていたのに「抱っこして」と求めたり、大人用のコップで飲んでいたのに哺乳瓶を欲しがったりします。また、赤ちゃん言葉を使うようになったり、おしゃぶりやタオルなどの安心できるものを手放さなくなったり、夜泣きが復活したりすることもあります。食事面では、手づかみ食べに戻ったり、離乳食のような柔らかい食べ物を欲しがったりすることもよくあります。
一方、イヤイヤ期の行動は自立欲求から来るものが多く、「自分で!」という主張が中心となります。「いや」「だめ」という拒否から始まり、何でも自分でやりたがるけれど思うようにできずに癇癪を起こす、というパターンが典型的です。赤ちゃん返りが「後戻り」の行動であるのに対し、イヤイヤ期は「前進しようとする」行動だと言えます。
動機の違いも明確です。赤ちゃん返りは「愛情を確認したい」「安心したい」という心理から起こり、多くの場合、親の注意を引くことが目的です。一方、イヤイヤ期は「自分の意思を通したい」「自立したい」という成長欲求から起こり、親への依存からの脱却が根底にあります。
同時に起こる場合の特徴も重要です。多くのこどもで、赤ちゃん返りとイヤイヤ期が同時期に現れることがあります。この場合、朝は「自分で着替える!」と言ってイヤイヤを起こし、夕方には「お母さんが着せて」と甘える、といった一見矛盾した行動を取ることがあります。また、下の子がいない場面では自立的に行動するのに、下の子がいる場面では急に赤ちゃんのような行動を取るという使い分けをすることもあります。
対象の違いも見られます。赤ちゃん返りは主にお母さんに対して現れることが多く、特に下の子のお世話をしている時に顕著になります。一方、イヤイヤ期はお父さんや保育園の先生など、様々な大人に対して現れます。また、赤ちゃん返りは家庭内で起こることが多いのに対し、イヤイヤ期は場所を問わず現れます。
持続性にも違いがあります。イヤイヤ期は比較的長期間(数ヶ月から1年以上)続く発達段階ですが、赤ちゃん返りは環境の変化に対する一時的な反応であることが多く、適切な対応があれば数週間から数ヶ月で改善することが多いです。
年齢による現れ方の違いも特徴的です。1歳半頃の赤ちゃん返りは主に基本的な生活行動(食事、睡眠、排泄)に現れますが、2歳頃になると言語的な赤ちゃん返り(赤ちゃん言葉、甘えた話し方)も見られるようになります。3歳頃では、「赤ちゃんみたいに抱っこして」「赤ちゃんのようにミルクを飲みたい」といった具体的な要求として現れることが多くなります。
感情の質にも違いがあります。イヤイヤ期の感情は怒りや欲求不満が中心ですが、赤ちゃん返りの感情は不安や寂しさが中心となります。そのため、イヤイヤ期の対応では境界設定が重要になりますが、赤ちゃん返りの対応では安心感を与えることが最優先になります。
回復のきっかけも異なります。イヤイヤ期は言語能力の発達とともに自然に改善していきますが、赤ちゃん返りは親の愛情を十分に感じられた時、環境に慣れた時、下の子との関係が安定した時などに改善することが多いです。
このように、赤ちゃん返りとイヤイヤ期は根本的な動機や現れ方が異なるため、それぞれに応じた理解と対応が必要です。
では、赤ちゃん返りが起きた時はどのように対応すればよいのでしょうか。
赤ちゃん返りへの効果的な対応方法
赤ちゃん返りには、こどもの気持ちを受け入れ、特別な愛情を伝えながら、家族全体で協力して対応することが重要です。
最も大切なのは、受け入れと共感の姿勢です。赤ちゃん返りは甘えやわがままではなく、こどもなりのSOSサインだと理解し、「そうだね、お母さんにやってもらいたいのね」「甘えたい気持ちなのね」と気持ちを受け止めてあげます。「もうお兄ちゃんでしょ」「恥ずかしいよ」といった否定的な言葉は避け、「甘えたい時は甘えていいよ」というメッセージを伝えることが大切です。できる範囲で、こどもの要求に応えてあげることで、安心感を与えることができます。
上の子への特別な時間を確保することも極めて重要です。下の子のお世話で忙しくても、上の子だけと過ごす「特別な時間」を意識的に作ります。下の子が昼寝している時間、下の子をお父さんに預けている時間などを活用して、上の子とじっくり向き合う時間を作ります。この時は、上の子の話をじっくり聞いたり、一緒に遊んだり、抱きしめたりして、「あなたも大切だよ」「お母さんはあなたのことも大好きよ」というメッセージを伝えます。
赤ちゃん返りの要求には、部分的に応えつつ、段階的に自立を促すことが効果的です。例えば、「着替えを手伝って」と言われた時は、全部をやってあげるのではなく、「お母さんがシャツを着せてあげるから、ズボンは○○ちゃんが履いてね」といった具合に、一部は甘えさせて一部は自分でやってもらうという方法を取ります。これにより、甘えの欲求を満たしつつ、自立心も育てることができます。
やってはいけない対応も理解しておくことが重要です。「もう大きいんだから」「赤ちゃんじゃないでしょ」といった年齢による否定は、こどもの自尊心を傷つけ、かえって赤ちゃん返りを長引かせる可能性があります。また、下の子と比較して「お姉ちゃんなんだから我慢しなさい」「弟の方が偉い」といった比較も避けるべきです。さらに、赤ちゃん返りを無視したり、厳しく叱ったりすることも、こどもの不安を増大させてしまいます。
上の子の成長や努力を積極的に認めることも大切です。「お兄ちゃんになったから○○ができるようになったね」「お手伝いしてくれてありがとう」「優しいお姉ちゃんだね」といった具合に、上の子ならではの良さや成長を具体的に褒めることで、自尊心を育て、お兄ちゃん・お姉ちゃんとしてのアイデンティティを支援します。
夫婦・家族での協力体制を整えることも不可欠です。お母さん一人で全てを抱え込まず、お父さんにも積極的に上の子との関わりを持ってもらいます。例えば、お母さんが下の子のお世話をしている時は、お父さんが上の子と遊ぶ、お風呂に入れる、寝かしつけをするといった役割分担をします。また、祖父母や信頼できる人に一時的に上の子を預かってもらい、上の子だけの特別な時間を作ることも効果的です。
日常生活での工夫も重要です。上の子が赤ちゃんのお世話に参加できるような役割を与えることで、排除感を軽減し、お兄ちゃん・お姉ちゃんとしての誇りを育てることができます。例えば、おむつを持ってきてもらう、赤ちゃんに歌を歌ってもらう、一緒にお風呂に入ってもらうといった具合に、年齢に応じた「お手伝い」をしてもらいます。
赤ちゃん返りの行動に対しては、感情と行動を分けて対応することが大切です。甘えたい気持ちは受け入れつつも、危険な行動や他人に迷惑をかける行動については、優しくも毅然とした態度で制限を設けます。例えば、「甘えたい気持ちは分かるけれど、赤ちゃんを叩くのはダメよ」といった具合に、気持ちは受け入れながら行動にはルールがあることを伝えます。
このように、赤ちゃん返りには受け入れと共感を基本とし、上の子への特別な配慮と家族全体での協力体制を整えることで効果的に対応することができます。
しかし、対応以上に重要なのは、予防や軽減のための日常的な工夫です。
赤ちゃん返りを予防・軽減する日常の工夫
赤ちゃん返りを予防・軽減するには、事前の準備と日常の関わり方を工夫し、上の子の心理的安定を保つことが効果的です。
下の子が生まれる前の準備が最も重要な予防策です。妊娠中から上の子に対して、赤ちゃんが来ることを段階的に説明し、心の準備をさせてあげます。「○○ちゃんのところに、小さな赤ちゃんが来るよ」「お兄ちゃん・お姉ちゃんになるんだね」と伝えながら、「でもお母さんの○○ちゃんに対する気持ちは変わらないよ」「○○ちゃんのことも大好きよ」という安心のメッセージも一緒に伝えます。また、赤ちゃんの人形を使って、おむつ替えやミルクをあげる真似をして遊んだり、上の子なりに赤ちゃんのお世話に参加できることを教えたりします。
妊娠中から上の子との一対一の時間を意識的に増やすことも大切です。お腹が大きくなって体調が優れない中でも、上の子だけに集中する時間を作り、「今のうちにたくさん一緒に過ごそうね」という気持ちで関わります。また、「赤ちゃんが生まれたら少し忙しくなるけれど、○○ちゃんのことも変わらず大切だからね」と事前に説明しておくことで、心の準備をしてもらいます。
出産後は、上の子の自尊心を守る関わり方が重要になります。来客が赤ちゃんばかりに注目している時は、「この赤ちゃんのお兄ちゃん・お姉ちゃんなんです」と上の子も紹介したり、「○○ちゃんも抱っこしてもらいませんか?」と上の子にも関心を向けてもらったりします。また、赤ちゃんのお世話をしている時も、「○○ちゃんが手伝ってくれるから、赤ちゃんも嬉しいね」「優しいお兄ちゃん・お姉ちゃんがいて、赤ちゃんは幸せだね」といった具合に、上の子の存在価値を認める言葉をかけ続けます。
きょうだい関係を良好に保つコツとして、比較をしないことが最も重要です。「お兄ちゃんの方が上手」「弟の方が早い」といった比較は避け、それぞれの子の個性や良さを認める言葉をかけます。また、年齢差を考慮した期待値を設定し、上の子に過度な我慢を強いないよう注意します。2歳、3歳のこどもに「お兄ちゃんだから」「お姉ちゃんだから」と大人のような我慢を求めるのではなく、年齢相応の甘えや失敗を受け入れる寛容さが大切です。
日常の関わりで上の子を特別扱いする機会を作ることも効果的です。下の子が昼寝している時間は「○○ちゃんタイム」として、上の子の好きな遊びをしたり、上の子の話をじっくり聞いたりする時間にします。また、たまには下の子を預けて、上の子と二人だけでお出かけする「デート」の時間を作ることで、特別感を味わってもらいます。
生活リズムの中で上の子の安心できるルーティンを保つことも大切です。下の子のお世話で生活が不規則になりがちですが、上の子の就寝時間や食事時間、お風呂の時間などはできるだけ一定に保ち、安心できる環境を維持します。特に寝る前の絵本タイムや、朝の挨拶タイムなど、上の子にとって大切な時間は優先的に確保するよう心がけます。
周囲の人々にも協力を求めることが重要です。祖父母、親戚、友人などに、上の子への関心も忘れずに示してもらうよう、事前にお願いしておきます。「赤ちゃんも可愛いけれど、お兄ちゃん・お姉ちゃんも頑張ってますね」といった声かけをしてもらったり、上の子にも小さなプレゼントを持参してもらったりすることで、上の子も大切にされていることを実感できます。
長期的な視点での見守り方も重要です。赤ちゃん返りは一時的な現象であることを理解し、焦らずに対応することが大切です。「今はこういう時期だから」と割り切り、上の子のペースに合わせて徐々に改善していくことを信じて見守ります。また、赤ちゃん返りを通して、上の子が感情表現や甘え方を学んでいることも理解し、成長の一部として捉えることが重要です。
このように、事前の準備・日常の配慮・長期的な視点を持って関わることで、赤ちゃん返りを予防・軽減し、きょうだい関係を良好に保ちながら家族全体の絆を深めることができるでしょう。
監修

略歴
2017年 | 本田右志理事長より右脳記憶教育講座を指南、「JUNKK認定マスター講師」取得 |
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2018年 | 幼児教室アップルキッズをリビングサロンとして開講 |
2020年 | 佐々木進学教室Tokiwaみらい内へ移転、「佐々木進学教室幼児部」として再スタート |
2025年 | 一般社団法人 日本右脳記憶教育協会(JUNKK)代表理事に就任 |