イヤイヤ期の癇癪はなぜ起こる?効果的な対処法と予防のコツ

イヤイヤ期

イヤイヤ期のこどもが突然大声で泣き叫び、手足をバタバタさせて暴れ始める癇癪に、多くの親が困惑しています。

公共の場での激しい癇癪に周囲の視線を感じながら、どう対応すればよいのか分からず途方に暮れた経験がある方も多いでしょう。

癇癪はイヤイヤ期における自然な現象であり、適切な理解と対処法を知ることで上手に乗り越えることができます。

この記事では、癇癪が起こる原因から具体的な対処法、そして日常的にできる予防策まで詳しく解説します。

イヤイヤ期の癇癪はなぜ起こるの?原因と特徴

イヤイヤ期の癇癪は、脳の発達段階と感情コントロールの未熟さが原因で起こる正常な発達現象です。

最も根本的な原因は、脳の発達段階にあります。2歳前後のこどもの脳では、感情を生み出す扁桃体は既に発達していますが、感情をコントロールする前頭前野はまだ未熟な状態です。そのため、「欲しい」「やりたい」「嫌だ」といった強い感情が湧き上がっても、それを適切にコントロールすることができません。例えば、お気に入りのおもちゃを他の子が使っているのを見た時、「貸して」と言葉で交渉する代わりに、「返して!」と泣き叫んで奪い取ろうとしてしまうのです。

癇癪の典型的な症状として、激しい泣き叫び、地面に寝転んで手足をバタバタさせる、物を投げる、叩く、噛みつくといった行動が見られます。こどもは顔を真っ赤にして全身で怒りや悲しみを表現し、大人の声かけにも一切耳を貸さない状態になります。スーパーでお菓子を買ってもらえなかった時に、その場で大泣きして床に寝転び、「買って!買って!」と30分以上泣き続けることもあります。

欲求不満とストレスの蓄積も大きな要因です。こどもは「自分でやりたい」という強い欲求を持っていますが、実際の能力がまだ追いついていないため、失敗や挫折を繰り返します。靴がうまく履けない、ボタンが留められない、パズルが完成しないなど、小さな失敗の積み重ねがストレスとなり、些細なきっかけで爆発的な癇癪となって現れます。

疲労・空腹・眠気などの生理的要因も癇癪の大きな引き金となります。大人でも疲れている時や空腹の時はイライラしやすくなりますが、こどもの場合その影響はより顕著に現れます。昼寝の時間がずれた日、朝ごはんをあまり食べなかった日、前日夜更かしをした翌日などは、普段なら受け入れられることでも癇癪の原因となってしまいます。

環境要因も重要な原因です。騒音、強い光、人混み、暑さ寒さなどの環境的ストレスが蓄積している時に、小さなきっかけで癇癪が爆発することがあります。特に敏感な気質のこどもは、大人には気にならない程度の刺激でも大きなストレスを感じ、それが癇癪の原因となります。

癇癪には大きな個人差があり、気質との関係も深く関わっています。生まれつき敏感で反応の強い気質のこどもは、小さな刺激でも強い感情反応を示し、癇癪も激しくなりがちです。一方、比較的おおらかな気質のこどもは、癇癪を起こす頻度も少なく、起こしても短時間で落ち着くことが多いです。

このように、イヤイヤ期の癇癪は脳の発達・欲求不満・生理的要因・環境要因など複数の原因が複合的に作用して起こる自然な現象なのです。

では、実際に癇癪が起きた時はどう対処すればよいのでしょうか。

癇癪が起きた時の効果的な対処法

癇癪が起きた時は、安全確保と冷静な対応を最優先とし、こどもの気持ちに共感しながら適切なタイミングで対処することが重要です。

最も重要なのは安全確保です。癇癪中のこどもは自分や他人を傷つける可能性があるため、まずは周囲の危険なものを取り除き、こどもが怪我をしないよう環境を整えます。階段の近く、車道の近く、ガラスや角のある家具の近くなど危険な場所にいる場合は、優しく安全な場所に誘導します。この時、無理に抱き上げたり引っ張ったりすると、さらに癇癪が激しくなることがあるので、「安全な場所に行こうね」と声をかけながら、こども自身が移動できるよう促します。

親自身が冷静さを保つことも極めて重要です。こどもの激しい癇癪を見ると、つい感情的になってしまいがちですが、大人が動揺すると子どもはさらに不安になり、癇癪が長引いてしまいます。深呼吸をして「これは成長の過程」「必ず終わる」と心の中で唱えながら、落ち着いた態度を維持しましょう。公共の場では周囲の視線が気になりますが、「今は対応に集中する」と割り切り、他人の目を気にしすぎないことが大切です。

共感的な声かけと気持ちの受け止め方も効果的な対処法です。「悲しかったね」「怒っているのね」「○○したかったのに残念だったね」など、こどもの感情を言葉にして伝えてあげます。この時、解決策を提示したり説教をしたりするのではなく、ただ気持ちを受け止めることに集中します。例えば、おもちゃを片付けるよう言われて癇癪を起こした場合、「まだ遊びたかったね」「楽しい時間が終わっちゃって寂しいね」と感情に共感します。

適切なタイミングでの気を逸らすテクニックも有効です。癇癪がピークの時は何を言っても聞こえていませんが、少し落ち着きが見えてきた時に「あ、お空に飛行機が飛んでるよ」「お母さんと手をつないでみる?」「好きな歌を歌ってみる?」など、注意を別のことに向けるような声かけをします。ただし、タイミングが早すぎると逆効果になるので、こどもの様子をよく観察して実行することが大切です。

癇癪中は基本的に見守る姿勢を保つことも重要です。激しく泣いている最中は、下手に声をかけたり抱きしめたりするよりも、安全な距離を保ちながら「お母さんはここにいるから大丈夫」という安心感を伝える方が効果的な場合が多いです。ただし、完全に放置するのではなく、「見守っている」という姿勢を示すことが大切です。

絶対に避けるべき対応もあります。感情的になって怒鳴ったり、「そんな子は知らない」と脅したり、体罰を与えたりすることは逆効果です。また、癇癪を止めるために要求をすべて受け入れてしまうことも、長期的には問題を悪化させる可能性があります。さらに、「恥ずかしいからやめなさい」「みんなが見てるよ」といった社会的プレッシャーをかける言葉も、こどもをさらに追い詰めてしまいます。

癇癪が落ち着いた後のフォローも大切です。泣き疲れて落ち着いた時に、「大変だったね」「もう大丈夫だよ」と優しく声をかけ、必要に応じて水分を与えたり、静かな環境で休ませたりします。この時に、癇癪について説教をするのではなく、気持ちが落ち着いたことを認めて、次の活動にスムーズに移行できるようサポートします。

このように、癇癪への対処は安全確保・冷静な対応・共感的な声かけを基本とし、適切なタイミングで気を逸らしながら見守る姿勢が最も効果的です。

しかし、対処法以上に重要なのは、癇癪を予防することです。

癇癪を予防するための日常的な工夫

癇癪を予防するには、生活リズムの安定・事前の準備・環境調整・気持ちに寄り添う関わりを日常的に実践することが効果的です。

生活リズムを整えることは癇癪予防の最も基本的で効果的な方法です。規則正しい起床・食事・昼寝・就寝の時間を設定し、できる限り毎日同じリズムで過ごすことで、こどもの心身が安定し、癇癪が起こりにくくなります。特に重要なのは睡眠です。夜は早めに寝かせ、昼寝も適切な時間に取らせることで、疲労の蓄積を防ぎます。また、食事の時間も一定にし、空腹による不機嫌を避けることが大切です。例えば、朝7時起床、8時朝食、12時昼食、13時から14時半まで昼寝、18時夕食、20時就寝といった具体的なスケジュールを作り、家族全員で守るようにします。

事前の説明と心の準備も重要な予防策です。こどもは予測できない状況に不安を感じやすいため、これから何をするか、どのくらい時間がかかるか、その後どうなるかを事前に説明しておくことで、心の準備ができ癇癪を防ぐことができます。例えば、「今日はスーパーに買い物に行って、それから公園で30分遊んで、お家に帰っておやつを食べようね」といった具合に、一日の流れを朝のうちに説明しておきます。また、時間の区切りも予告しておくと効果的です。「あと5分遊んだら片付けの時間だよ」「あと2回滑り台に滑ったら帰るよ」など、具体的な目安を示すことで、こども自身も心の準備ができます。

環境調整と刺激の軽減も癇癪予防に大きく役立ちます。特に敏感な気質のこどもは、音、光、人混み、温度などの環境的ストレスが蓄積して癇癪の原因となることが多いため、できる限り刺激の少ない環境を整えることが重要です。例えば、買い物は人の少ない時間帯を選ぶ、レストランでは静かな席を予約する、外出時は帽子やサングラスで光の刺激を軽減するなどの工夫をします。また、家庭内では、テレビの音量を適切にし、整理整頓を心がけて視覚的な刺激を減らすことも効果的です。

こどもが自分で選択できる機会を増やすことも予防に役立ちます。「今日着る服はどれにする?」「おやつはリンゴとバナナどちらがいい?」「お風呂で遊ぶおもちゃを選んでね」といった具合に、日常生活の中で小さな選択をさせることで、こどもは自分でコントロールできている感覚を得られ、欲求不満が減少します。ただし、選択肢は2〜3個に絞り、「やらない」という選択肢は含めないことがポイントです。

こどもの気持ちに寄り添う関わり方を日常的に実践することも重要です。こどもが何かを訴えてきた時は、忙しくても一旦手を止めて「どうしたの?」と聞き、気持ちを受け止める時間を作ります。また、「頑張ったね」「上手にできたね」「お手伝いしてくれてありがとう」といった具合に、こどもの努力や成長を認める言葉を積極的にかけることで、自己肯定感が育ち、情緒が安定します。

十分な親子の時間を確保することも癇癪予防には欠かせません。こどもが親の注意を引くために癇癪を起こすことを防ぐため、毎日決まった時間を「○○ちゃんとの特別な時間」として確保し、こどもだけに集中する時間を作ります。この時間はスマートフォンを触らず、こどもの話をじっくり聞いたり、一緒に遊んだりすることに専念します。

感情の言語化を教えることも効果的な予防策です。こどもがイライラしている様子を見せた時に、「怒っているのね」「悲しいのかな」「疲れたのかな」といった具合に、感情に名前をつけて教えてあげることで、こども自身が自分の気持ちを理解し、適切に表現できるようになります。また、「困った時はお母さんに教えてね」「嫌な時は『嫌』って言っていいよ」といった具合に、癇癪以外の表現方法があることも教えていきます。

適度な運動と外遊びも癇癪予防に役立ちます。エネルギーが有り余っていると些細なことでも爆発しやすくなるため、毎日適度に体を動かす時間を確保することで、心身のバランスを保つことができます。公園での外遊び、室内での体操、お散歩など、こどもの年齢や体力に応じた運動を日常に取り入れましょう。

このように、生活リズム・事前準備・環境調整・寄り添う関わりを日常的に実践することで、癇癪の頻度や強度を大幅に減らすことができるでしょう。

癇癪はタイプを見極めることでより良い対応が可能です。

癇癪のタイプ別対応と見分け方のコツ

癇癪にはタイプがあり、それぞれの特徴に応じた対応をすることで、より効果的に対処することができます。

欲求不満型の癇癪は、やりたいことができない時、欲しいものが手に入らない時に起こります。この場合の対応は、まず気持ちを受け止めた上で、代替案を提示することが効果的です。例えば、「お菓子が欲しかったね。でも今はご飯の時間だから、ご飯を食べた後に少し食べようか」といった具合に、要求そのものは通さないが、将来の見通しを示すことで落ち着かせます。

疲労・体調不良型の癇癪は、眠い時、お腹が空いている時、体調が優れない時に起こりやすくなります。この場合は、根本原因である生理的ニーズを満たすことが最優先です。無理に癇癪を止めようとするよりも、静かな場所で休ませる、軽食を与える、水分補給をするなど、体調面のケアを先に行います。

感覚過敏型の癇癪は、音、光、肌触り、味、においなどの刺激に敏感なこどもに起こります。服のタグがちくちくする、電車の音が大きすぎる、食べ物の温度が微妙に違うといった刺激が引き金となります。この場合は、刺激の元を取り除いたり、環境を調整したりすることが重要です。また、事前に「今度行く場所は少し音が大きいよ」と予告しておくことも効果的です。

注意喚起型の癇癪は、親の気を引きたい時、構ってもらいたい時に起こります。特に下の子が生まれた時や、親が忙しくしている時によく見られます。この場合は、癇癪そのものに過度に反応するのではなく、普段からこどもとの時間を確保し、「あなたも大切だよ」というメッセージを伝えることが重要です。

コミュニケーション困難型の癇癪は、言いたいことがうまく伝わらない、理解してもらえない時に起こります。言語発達がゆっくりなこどもに多く見られます。この場合は、こどもが何を伝えようとしているのかを推察し、「○○がしたいのかな?」「△△が嫌だったのかな?」と代弁してあげることが効果的です。

癇癪とわがままの見分け方も重要なポイントです。真の癇癪は、こどもが感情をコントロールできない状態で起こるため、周囲の反応に関係なく続きます。一方、わがままの場合は、親の反応を見ながら行動を調整することがあります。例えば、親が無視すると急に静かになったり、他の大人が来ると突然泣き止んだりする場合は、注意を引くための行動の可能性があります。

場所による癇癪の特徴も理解しておくと対応しやすくなります。家での癇癪は比較的長時間続くことが多いですが、安全な環境なので見守ることができます。一方、公共の場での癇癪は短時間でも周囲への配慮が必要になるため、事前の予防策がより重要になります。外出前に「お約束」を確認したり、気を逸らすアイテムを持参したりする準備が大切です。

きょうだいがいる場合の癇癪対応では、他の子への配慮も必要です。癇癪を起こしている子だけに注目が集まりがちですが、上の子や下の子も不安を感じていることがあります。「○○ちゃんは今大変だけど、△△ちゃんも大丈夫だからね」と声をかけたり、可能であれば他の大人にサポートを頼んだりすることも重要です。

年齢による癇癪の特徴を理解することも大切です。1歳半頃の癇癪は比較的単純で、主に生理的ニーズ(眠い、お腹空いた)が原因のことが多いです。2歳頃になると自我が強くなり、「自分で」という要求からの癇癪が増えます。2歳半から3歳は最も激しくなる時期で、複雑な感情が絡み合った癇癪が起こります。3歳を過ぎると言葉で表現できることが増え、徐々に癇癪は減少していきます。

このように、癇癪のタイプを見分けて適切な対応をすることで、こどもの気持ちに寄り添いながら効果的に対処することができるでしょう。

監修

代表理事
佐々木知香

略歴

2017年 本田右志理事長より右脳記憶教育講座を指南、「JUNKK認定マスター講師」取得
2018年 幼児教室アップルキッズをリビングサロンとして開講
2020年 佐々木進学教室Tokiwaみらい内へ移転、「佐々木進学教室幼児部」として再スタート
2025年 一般社団法人 日本右脳記憶教育協会(JUNKK)代表理事に就任
塾講師として中高生の学習指導に長年携わる中で、幼児期・小学校期の「学びの土台づくり」の重要性を痛感。
結婚を機に地方へ移住後、教育情報や環境の地域間格差を実感し、「地域に根差した実践の場をつくりたい」との想いから、幼児教室アップルキッズを開校。
発達障害や不登校の支援、放課後等デイサービスでの指導、子ども食堂での学習支援など、多様な子どもたちに寄り添う教育活動を展開中。