イヤイヤ期の放置は効果的?癇癪への適切な距離の取り方

イヤイヤ期

イヤイヤ期のこどもが癇癪を起こした時、放置するべきか関わるべきか悩む親御さんは少なくありません。

「泣いている時は放置した方がいい」という意見を聞いたことがある一方で、「放置するのはかわいそう」という気持ちも湧いてきます。

イヤイヤ期の癇癪に対する放置という対応は、状況によって効果的な場合とそうでない場合があるため、適切な判断が必要です。

この記事では、放置と見守りの違いや効果的な距離の取り方、放置してはいけない危険な状況、そして総合的な対応法について詳しく解説します。

イヤイヤ期の癇癪を放置することは効果的なのか

イヤイヤ期の癇癪を放置することは、状況に応じた適切な放置と見守りであれば効果的ですが、完全に無視することは推奨されません。

まず、放置と見守りの違いを理解することが重要です。放置とは完全に無視して関わらないことを指しますが、見守りとは少し距離を置きながらも様子を観察し、必要に応じて介入する姿勢を指します。効果的なのは後者の「見守り」であり、完全な放置ではありません。見守りの場合、こどもは「一人ではない」という安心感を持ちながら、自分で感情を整理する時間を得ることができます。一方、完全な放置は、こどもに「見捨てられた」という不安感を与える可能性があります。

効果的な場合としては、こどもが単に要求が通らないことへの不満を表現している時が挙げられます。例えば、お菓子を買ってもらえなかった、おもちゃを買ってほしいといった要求が通らなかった時の癇癪は、ある程度の距離を置いて見守ることで、こども自身が気持ちを切り替える機会になります。また、親が過剰に反応することで癇癪が悪化するケースでは、冷静に距離を取ることで状況が落ち着くことがあります。さらに、こどもが自分で感情をコントロールする練習をする段階にある場合も、見守りながら自己調整能力を育てる良い機会となります。

逆効果になる場合も存在します。こどもが本当に困っていたり、恐怖や不安を感じていたりする時に放置すると、信頼関係が損なわれる可能性があります。また、2歳未満の非常に幼いこどもの場合、まだ自己調整能力が未発達なため、放置よりも寄り添いが必要です。さらに、癇癪が激しく自傷行為や他害行為に発展する可能性がある場合は、必ず介入が必要です。

安全確保が前提であることを忘れてはいけません。距離を置く場合でも、こどもが危険な行動を取っていないか、周囲に危険なものがないかを常に確認する必要があります。例えば、頭を打ちつける、物を投げる、高い場所に登るといった行動が見られる場合は、すぐに介入して安全を確保します。見守りとは「目を離す」ことではなく、「少し離れた場所から注意深く観察する」ことです。

年齢による判断基準も重要です。1歳半から2歳前半のこどもは、まだ感情調整能力が非常に未熟なため、完全に一人にするよりは近くで見守る方が適切です。2歳半から3歳頃になると、徐々に自分で気持ちを落ち着かせる力がついてくるため、状況に応じて距離を取ることが効果的になります。3歳以降は、言語理解も進むため、「少し一人で落ち着こうね。落ち着いたら話そう」といった声かけとともに見守ることができるようになります。

個人差への配慮も必要です。同じ年齢でも、発達段階や性格によって適切な対応は異なります。普段から敏感なこども、不安が強いこどもには、より近い距離での見守りが必要です。一方、比較的自立心が強く、一人で気持ちを切り替えられるこどもには、適度な距離が効果的な場合もあります。

このように、イヤイヤ期の癇癪への放置は、完全な無視ではなく適切な見守りとして行うことで効果的になります。

では、具体的にどのように距離を取り、見守ればよいのでしょうか。

適切な距離の取り方と見守りのポイント

適切な距離の取り方は、物理的な距離と心理的な距離のバランスを保ちながら、こどもの安全と感情的安心感の両方を確保することが重要です。

物理的な距離の取り方として、まず安全な環境を確保することが第一です。癇癪を起こしている場所に危険なものがないか確認し、必要であれば安全な場所に移動します。その後、こどもから1〜3メートル程度離れた位置に座ったり立ったりして、様子を見守ります。完全に部屋を出て行くのではなく、こどもの視界の端に入る程度の距離を保つことで、「見捨てられていない」という安心感を与えながら、過度な刺激を避けることができます。

心理的な距離の保ち方も同様に重要です。「お母さんはここにいるからね」「落ち着いたら話そうね」といった短い言葉をかけることで、心理的なつながりを維持します。ただし、説得や説教をしたり、「どうして泣いているの?」と問い詰めたりすることは避けます。こどもが癇癪の最中は、言葉を理解する余裕がないため、シンプルな声かけにとどめます。また、無表情で無視するのではなく、穏やかな表情で見守ることで、「あなたのことを気にかけているけれど、今は少し距離を置いている」というメッセージを伝えます。

様子を見ながらの声かけタイミングを判断することも大切です。癇癪が始まった直後は、刺激を最小限にするため、あまり声をかけません。癇癪がピークに達している間は、安全確保のための介入以外は距離を保ちます。泣き声が小さくなってきた、体の緊張が緩んできた、周囲を見回すようになったといったサインが見られたら、徐々に近づいていきます。このタイミングで「頑張ったね」「落ち着いてきたね」といった声かけをし、「お水飲む?」「抱っこする?」といった具体的な提案をします。

安全な環境の確保は見守りの大前提です。家の中であれば、尖ったものや硬いものを片付け、こどもが頭を打つ可能性のある家具から離れた場所に誘導します。外出先の場合は、まず人通りの少ない安全な場所に移動し、こどもが走り出したり危険な場所に行ったりしないよう注意を払いながら見守ります。公園であれば芝生の上、お店であれば店の外や休憩スペースなど、安全でこども自身も落ち着きやすい環境を選びます。

クールダウンまでの寄り添い方として、段階的なアプローチが効果的です。まず、癇癪の初期段階では物理的に少し距離を置きながらも、視線は向けておきます。癇癪が続いている間は、無理に止めようとせず、自然に落ち着くのを待ちます。泣き声が小さくなってきたら、「大変だったね」「疲れたね」と共感的な声かけをします。完全に落ち着いてから、「どうしたかったの?」とこどもの気持ちを聞く姿勢を示し、抱きしめたりスキンシップを取ったりして、安心感を与えます。

観察のポイントとして、癇癪の強度や持続時間を把握しておくことも重要です。普段より激しい、いつもより長く続くといった変化があれば、何か別の要因(体調不良、強いストレスなど)がある可能性を考えます。また、癇癪のパターンを記録しておくことで、どのような時に距離を取るのが効果的か、どのような時は寄り添う必要があるかが見えてきます。

兄弟姉妹がいる場合の配慮も必要です。癇癪を起こしているこどもを見守っている間、他の兄弟姉妹が不安にならないよう、「今は○○ちゃんが泣いているから、少し待っていようね」と説明します。また、癇癪を起こすことで親の注目を集められると学習しないよう、普段から他の兄弟姉妹にも十分な愛情と関心を示すことが大切です。

見守りの姿勢として、焦らず、諦めず、冷静でいることが何より重要です。「早く泣き止ませなければ」という焦りは、親の表情や態度に現れ、こどもにも伝わります。「今は感情を発散する時間なんだ」「これも成長の過程」と捉え、長期的な視点で見守ることが大切です。

このように、適切な距離を保ちながら見守ることで、こどもは自分で感情を調整する力を少しずつ育てていくことができます。

しかし、すべての状況で距離を取ることが適切というわけではありません。

放置してはいけない危険なサインと状況

放置してはいけない危険なサインを見逃さず、適切に介入することは、こどもの安全と心の健康を守るために不可欠です。

自傷行為や他害行為が見られる場合は、直ちに介入が必要です。頭を壁や床に打ちつける、自分の腕や手を噛む、髪の毛を引っ張る、顔を引っかくといった自傷行為は、そのまま放置すると怪我につながります。また、親や兄弟姉妹を叩く、蹴る、噛みつくといった他害行為も、すぐに止める必要があります。このような行動が見られたら、こどもの体を優しく抱きしめて動きを制限し、「痛いことはダメだよ」と短く伝えます。力任せに押さえつけるのではなく、こどもが自分や他者を傷つけないよう、安全を確保するための最小限の介入を行います。

長時間泣き続けて呼吸が乱れる場合も危険なサインです。顔が真っ赤になる、息が止まる、唇が紫色になる、過呼吸の症状が見られるといった状況では、すぐに抱きかかえて落ち着かせる必要があります。深呼吸を促す、水を飲ませる、外の空気を吸わせるなどの対応を行います。また、嘔吐してしまう、意識が朦朧とするといった症状が見られる場合は、医療機関への相談も検討します。

パニック状態で収まらない場合も介入が必要です。30分以上激しい癇癪が続く、何をしても全く反応がない、目の焦点が合わない、体が硬直しているといった状態は、通常の癇癪を超えたパニック状態の可能性があります。このような場合は、静かで刺激の少ない場所に移動し、優しく抱きしめたり背中をさすったりして、安心感を与えます。それでも収まらない場合は、専門家への相談が必要です。

年齢や発達段階による判断として、特に2歳未満の非常に幼いこどもの場合は、ほとんどの癇癪で寄り添いが必要です。この年齢では自己調整能力がまだ未発達なため、一人で落ち着くことが困難です。親の温もりと声が何より安心材料となるため、距離を取るよりは近くで見守り、必要に応じてすぐに抱きしめられる位置にいることが望ましいです。

体調不良が隠れている可能性がある場合も注意が必要です。普段とは明らかに違う激しさの癇癪、いつもなら落ち着く方法でも全く効果がない、癇癪の前後に嘔吐や発熱があるといった場合は、体調不良による不快感が癇癪の原因になっている可能性があります。耳の痛み、お腹の痛み、頭痛など、言葉でうまく伝えられない痛みが癇癪として表れることもあるため、体調面のチェックも忘れずに行います。

環境的に危険な場所での癇癪も放置できません。道路の近く、階段の近く、水辺、人混みの中など、危険が伴う場所で癇癪を起こした場合は、まず安全な場所に移動することが最優先です。抱きかかえて無理やり移動させる必要がある場合もあり、この時は「危ないから移動するね」と短く伝えながら行います。

過去にトラウマ的な経験がある場合の癇癪も慎重な対応が必要です。入院経験、事故、災害などのトラウマがあるこどもが、それを想起させるような状況で癇癪を起こした場合は、より丁寧な寄り添いが必要です。このような場合の癇癪は、単なる要求不満ではなく、深い不安や恐怖の表現であるため、心理的なサポートを重視します。

保護者自身の限界も重要な判断基準です。見守ることに疲れ果てている、イライラが爆発しそう、どうしていいかわからないと感じる場合は、一時的に他の家族に頼る、子育て支援センターに相談する、場合によっては専門家に相談することも必要です。親が精神的に追い詰められている状態では、適切な判断ができなくなるため、自分自身のケアも大切にします。

頻度や期間の異常も見逃せないサインです。1日に何度も激しい癇癪を繰り返す、数週間にわたって癇癪の頻度や強度が増している、4歳を過ぎても激しい癇癪が続くといった場合は、何か別の問題が隠れている可能性があります。発達の課題、環境のストレス、家族関係の問題など、根本的な原因を探る必要があるかもしれません。

このように、放置してはいけない危険なサインを見極め、適切なタイミングで介入することが、こどもの安全と健やかな成長のために重要です。

しかし、癇癪への対応は見守りや放置だけではありません。

放置以外の選択肢と総合的な対応法

放置以外にも効果的な対応法は多数あり、状況やこどもの特性に応じて柔軟に使い分けることで、より良い結果が得られます。

共感しながらの寄り添いは、最も基本的で効果的なアプローチです。「○○したかったんだね」「悲しかったね」「悔しいよね」といった共感の言葉をかけながら、そばにいることで、こどもは「自分の気持ちをわかってもらえた」という安心感を得ます。この方法は、要求が通らなかったことよりも、気持ちを理解してもらえないことに傷ついているこどもに特に効果的です。抱きしめながら「大丈夫だよ」と優しく声をかけ続けることで、多くの癇癪は自然に収まっていきます。

気をそらす方法も、特に癇癪の初期段階で有効です。「あ、あそこに鳥がいるよ」「窓の外を見てごらん」「好きな絵本を読もうか」といった具合に、こどもの注意を別のものに向けることで、癇癪のきっかけとなった出来事から気持ちを切り替えさせます。ただし、気をそらす方法は癇癪が本格化してからでは効果が薄いため、こどもが怒り始めた瞬間や、癇癪の兆候が見えた時点で使うことがポイントです。また、毎回この方法ばかりに頼ると、根本的な感情処理能力が育たないため、他の方法と組み合わせて使います。

スキンシップでの落ち着かせ方は、特に敏感で不安が強いこどもに効果的です。優しく抱きしめる、背中をゆっくりさする、頭を撫でる、手を握るといったスキンシップは、こどもに安心感を与え、興奮状態を鎮める効果があります。「大丈夫、大丈夫」と繰り返しながらリズミカルに背中をトントンすることで、こどもの呼吸が整い、心拍数が落ち着いてきます。ただし、スキンシップを嫌がるこどももいるため、こどもの反応を見ながら行うことが大切です。

言葉での説明と理解を促す方法は、3歳以上のある程度言語理解が進んだこどもに有効です。「今は○○の時間だから、△△は後でね」「危ないから今はダメだけど、安全な場所でなら良いよ」といった具合に、なぜダメなのか、いつなら良いのかを簡潔に説明します。ただし、癇癪の最中は言葉が入らないため、落ち着いてから説明することが重要です。また、長々と説教するのではなく、短い言葉で要点だけを伝えます。

選択肢を提示する方法も効果的なアプローチです。「お菓子は今は食べられないけど、リンゴとバナナならどっちがいい?」「この服は洗濯中だから着られないけど、赤い服と青い服、どっちにする?」といった具合に、元の要求は通せないが、代替案を選ばせることで、こどもの自己決定欲求を満たします。選択肢があることで、「全部ダメ」という絶望感が軽減され、癇癪が収まりやすくなります。

環境を変える方法も有効です。家の中で癇癪を起こしている場合は外に出る、外で起こしている場合は静かな場所に移動するといった環境の変化が、気持ちの切り替えを促すことがあります。「お外の空気を吸いに行こうか」「ちょっとベランダに出てみよう」といった誘い方で、自然に場所を変えることができます。

予防的なアプローチも長期的には最も重要です。癇癪が起こりやすい状況(疲れている時、空腹の時、予定の変更があった時など)を把握し、事前に対策を立てます。例えば、疲れる前に休憩を入れる、空腹になる前に軽食を用意する、予定変更がある時は事前に説明しておくといった工夫で、癇癪そのものの頻度を減らすことができます。

状況に応じた柔軟な判断が最も重要です。同じこどもでも、日によって、状況によって、効果的な方法は異なります。今日は見守りが良かったけれど、明日は寄り添いが必要かもしれません。この癇癪には気をそらすのが効果的だけれど、別の癇癪にはスキンシップが必要かもしれません。一つの方法にこだわらず、その時々のこどもの状態を見ながら、最適な対応を選択する柔軟性が大切です。

記録をつけることで、どの方法がどんな状況で効果的かが見えてきます。癇癪の原因、対応方法、結果を簡単にメモしておくことで、パターンが把握できるようになります。「おもちゃの取り合いの時は気をそらすのが効果的」「眠い時の癇癪は抱っこが一番」といった具合に、自分のこどもに合った対応法が明確になってきます。

専門家への相談も選択肢の一つです。何を試しても改善しない、癇癪があまりにも激しい、日常生活に大きな支障がある場合は、小児科医、臨床心理士、保健師などの専門家に相談することも大切です。発達の課題や感覚過敏など、専門的なサポートが必要な場合もあるため、一人で抱え込まず、適切な支援を受けることが重要です。

このように、放置や見守り以外にも多様な対応法があり、それらを状況に応じて使い分けることで、イヤイヤ期の癇癪により効果的に対応することができます。大切なのは、「これが正解」という固定的な考え方ではなく、こどもの個性や状況に合わせて柔軟に対応する姿勢です。そして、どの方法を選ぶにしても、親自身が冷静でいられること、こどもへの愛情と信頼を持ち続けることが、何より重要な土台となるのです。

監修

代表理事
佐々木知香

略歴

2017年 本田右志理事長より右脳記憶教育講座を指南、「JUNKK認定マスター講師」取得
2018年 幼児教室アップルキッズをリビングサロンとして開講
2020年 佐々木進学教室Tokiwaみらい内へ移転、「佐々木進学教室幼児部」として再スタート
2025年 一般社団法人 日本右脳記憶教育協会(JUNKK)代表理事に就任
塾講師として中高生の学習指導に長年携わる中で、幼児期・小学校期の「学びの土台づくり」の重要性を痛感。
結婚を機に地方へ移住後、教育情報や環境の地域間格差を実感し、「地域に根差した実践の場をつくりたい」との想いから、幼児教室アップルキッズを開校。
発達障害や不登校の支援、放課後等デイサービスでの指導、子ども食堂での学習支援など、多様な子どもたちに寄り添う教育活動を展開中。