これまで誰にでもニコニコしていたこどもが、突然人を見て泣くようになったという経験はありませんか。
祖父母に抱かれると泣く、知らない人が近づくと顔を隠す、そんな様子に戸惑う保護者は少なくありません。
人見知りは成長の証であり、健全な発達の一部ですが、いつから始まるのか、どう対応すればよいのか不安を感じることもあるでしょう。
時期や原因を理解することで、こどもの気持ちに寄り添った適切な対応ができるようになります。
この記事では、人見知りはいつから始まるのか、その理由と上手な向き合い方について詳しく解説します。
人見知りはいつから始まるのか
人見知りは一般的に生後6か月頃から始まり、個人差はありますが多くのこどもが経験する発達段階です。
人見知りとは、こどもが特定の養育者以外の人に対して警戒心や恐怖心を示す現象のことです。今まで誰にでも笑顔を見せていたこどもが、ある日突然、知らない人や久しぶりに会う親戚を見て泣いたり、顔を背けたりするようになります。この変化に驚く保護者も多いですが、これは脳の発達による正常な反応なのです。
最も典型的に人見知りが始まるのは生後6か月から7か月頃です。この時期になると、こどもは「いつも世話をしてくれる人」と「それ以外の人」を明確に区別できるようになります。顔の認識能力が発達し、見慣れた顔とそうでない顔を識別できるようになるのです。そして、見慣れない顔を見たときに不安を感じ、泣いたり保護者にしがみついたりします。
ただし、人見知りが始まる時期には大きな個人差があります。早い子では生後4か月頃から始まることもありますし、遅い子では1歳を過ぎてから始まることもあります。また、全く人見知りをしないこどももいます。人見知りの有無や強さは、性格や気質、育った環境など様々な要因が影響するため、一概に「この時期に始まるべき」と決まっているわけではありません。
人見知りの強さも個人差が大きく、ちょっと顔をそむける程度の軽い反応から、激しく泣いて抱かれることを拒否するような強い反応まで様々です。どのような反応であっても、それはこどもなりの感情表現であり、発達の証です。
こどもの行動の変化に戸惑わず適切に対応するためには、人見知りが始まる時期を理解することが重要です。
では、なぜこの時期に人見知りが始まるのでしょうか。
人見知りが始まる理由
人見知りは、こどもの心と脳が健全に発達している証拠であり、複数の発達要因が関係しています。
人見知りが起こる最も大きな理由は、認知能力の発達です。生後6か月頃になると、こどもの脳は急速に発達し、人の顔を認識して記憶する能力が高まります。それまでは顔の輪郭や明暗のコントラストしか認識できなかったのが、この時期になると目や鼻、口の配置といった細かい特徴まで識別できるようになるのです。
この認識力の向上により、こどもは「いつも見る顔」と「初めて見る顔」を区別できるようになります。見慣れた顔は安心感をもたらしますが、見慣れない顔は「知らない」という情報として脳に入力されます。この「知らない」という認識が不安や恐怖を引き起こし、人見知りとして現れるのです。
記憶力の発達も人見知りに関係しています。生後6か月頃には短期記憶が発達し、「さっきまでお母さんがいたのに、今この人は違う」ということが分かるようになります。この記憶と比較する能力が、人見知りを生み出す要因のひとつです。
愛着形成との関係
人見知りは、特定の養育者への愛着が形成されている証でもあります。
愛着とは、こどもが特定の人物との間に築く情緒的な絆のことです。生後数か月の間、こどもは主な養育者から一貫したケアを受けることで、その人への信頼感を育みます。「この人は自分を守ってくれる」「この人がいれば安心だ」という感覚が、愛着の基盤です。
愛着が形成されると、こどもはその対象者を「安全基地」として認識します。見慣れない人や状況に遭遇したとき、愛着対象者がそばにいれば安心できますが、その人以外の人が近づいてくると不安を感じます。これが人見知りとして表れるのです。
人見知りが激しいということは、それだけ特定の養育者への愛着が深く形成されているということでもあります。「お母さん(お父さん)じゃないと嫌」という反応は、決してわがままではなく、健全な愛着形成の証なのです。
逆に、愛着が十分に形成されていないこどもは、人見知りをしないことがあります。誰にでも同じように接するのは、一見社交的に見えますが、特定の人との深い絆が築けていない可能性も考えられます。もちろん、単に外向的な性格である場合もあるため、人見知りの有無だけで愛着形成を判断することはできませんが、人見知りと愛着には深い関係があることは確かです。
脳の発達による認識力の向上
脳の発達段階が、人見知りの始まりと密接に関係しています。
生後6か月頃は、視覚野や記憶を司る海馬などの脳領域が急速に発達する時期です。この発達により、こどもは視覚情報をより詳細に処理できるようになります。顔の特徴を細かく認識し、それを記憶と照合する能力が向上するのです。
また、扁桃体という感情を司る脳の部位も発達します。扁桃体は恐怖や不安といった感情を生み出す役割を持っており、この部位の活動が活発になることで、「知らない顔」に対する警戒反応が生まれます。見慣れない顔を見たときに扁桃体が反応し、「これは危険かもしれない」という信号を送るのです。
前頭葉の発達も影響しています。前頭葉は思考や判断を司る部位ですが、乳児期はまだ未熟です。そのため、「知らない人だけど危険ではない」という判断ができず、単純に「知らない=怖い」という反応になってしまいます。成長とともに前頭葉が発達すると、状況を判断する力がつき、人見知りは徐々に落ち着いていきます。
このように、人見知りは脳の様々な領域の発達が関わる複雑な現象であり、それが始まる理由は生理的・心理的な成長と密接に結びついているのです。
ただし、すべてのこどもが同じように人見知りをするわけではありません。
人見知りの現れ方の個人差
人見知りには大きな個人差があり、その強さや期間は一人ひとり異なります。
人見知りが非常に激しいこどももいれば、ほとんど人見知りをしないこどももいます。この違いは、こどもの生まれ持った気質が大きく影響しています。慎重で警戒心の強い気質のこどもは、人見知りが激しくなる傾向があります。一方、外向的で新しい刺激を楽しむ気質のこどもは、人見知りが軽いか、ほとんどしないこともあります。
育った環境も人見知りの強さに影響します。日常的に多くの人と接する機会があるこどもは、様々な顔に慣れているため、人見知りが比較的軽い傾向があります。例えば、保育園に通っている、兄弟が多い、頻繁に親戚や友人が訪ねてくるなど、人との交流が多い環境では、「知らない顔」への警戒心が薄れやすいのです。
逆に、普段は家族だけで過ごすことが多く、外出も少ないこどもは、人見知りが強くなることがあります。これは決して悪いことではなく、環境の違いによる自然な反応です。少人数での静かな環境で育つことにも、こどもの情緒を安定させるという利点があります。
人見知りの対象も個人差があります。男性を怖がる、眼鏡をかけた人を怖がる、声の大きい人を怖がるなど、特定の特徴を持つ人に対して強い反応を示すこどももいます。これは過去の経験や、こどもが持つイメージが影響していると考えられます。
人見知りの期間にも個人差があります。数か月で落ち着くこどももいれば、2歳頃まで続くこどももいます。長く続く場合でも、それは性格や環境によるものであり、発達に問題があるわけではありません。
全く人見知りをしないこどももいますが、これも個性のひとつです。人見知りをしないからといって、愛着が形成されていないとは限りません。単純に外向的で適応力が高い性格である可能性が高いのです。ただし、誰が抱いても全く平気で、特定の保護者への愛着行動が見られない場合は、念のため保健師や小児科医に相談してみるとよいでしょう。
人見知りの現れ方は多様であり、こども一人ひとりの個性が反映される自然な現象なのです。
人見知りへの対応を考える前に、まずやってはいけないことを理解しておくことが大切です。
人見知りの時期にやってはいけないこと
人見知りへの対応を誤ると、こどもの不安を増幅させてしまう可能性があります。
最もやってはいけないのは、こどもを叱ることです。「泣かないの」「恥ずかしいからやめなさい」といった叱責は、こどもにとって何の意味も持ちません。人見知りは意図的な行動ではなく、恐怖や不安という感情の自然な表れです。叱られることで、こどもはさらに不安を感じ、人見知りが悪化することもあります。
無理やり知らない人に抱かせることも避けるべきです。「慣れさせよう」という意図で、泣いているこどもを無理に他人に渡すことは、こどもに強い恐怖を与えます。恐怖体験は記憶に残り、その後の人見知りをより深刻にする可能性があります。こどもが嫌がっているときは、無理強いせず、その気持ちを尊重することが大切です。
「人見知りして困る」「いつも泣いてばかり」と、こどもの前で否定的な言葉を使うことも避けましょう。こどもは言葉の意味を完全には理解していなくても、保護者の表情や声のトーンから感情を読み取ります。否定的な言葉は、こども自身が「自分は悪いことをしている」と感じる原因になります。
他のこどもと比較することも有害です。「○○ちゃんは人見知りしないのに」「お兄ちゃんの時はこんなじゃなかった」といった比較は、こどもの個性を否定することになります。人見知りの強さは個性であり、良い悪いで判断できるものではありません。
保護者自身が過度に不安そうな態度を見せることも、こどもに影響します。こどもは保護者の表情や雰囲気を敏感に感じ取ります。保護者が「この人は危険かもしれない」という不安を抱いていると、こどももその不安を感じ取り、人見知りが強くなることがあります。できるだけ落ち着いた態度で接することが大切です。
人見知りを「克服すべき問題」として捉えることも適切ではありません。人見知りは発達の一過程であり、時間とともに自然に落ち着いていくものです。焦って何とかしようとすると、かえってこどもにプレッシャーを与えてしまいます。
こどもの気持ちを否定したり無理強いしたりすることは、人見知りを悪化させる可能性があるため避けるべき対応です。
やってはいけないことを理解した上で、適切な対応方法を見ていきましょう。
人見知りへの上手な対応方法
人見知りには、こどもの気持ちに寄り添った温かい対応が求められます。
最も大切なのは、こどもの気持ちを受け止めることです。泣いたり嫌がったりしたときは、「怖かったね」「知らない人で不安だったね」と、こどもの感情を言葉にして受け止めてあげましょう。自分の気持ちを理解してもらえたと感じることで、こどもは安心します。
人見知りをしたときは、無理に引き離さず、こどもが安心できる距離を保つことが大切です。抱っこを求めてきたら応じる、保護者にしがみついてきたらそのまま受け入れるなど、こどもが「安全基地」として保護者を頼れる状態を維持します。時間が経てば、こどもは自分から興味を示すようになることも多いのです。
初対面の人と会う場合は、段階的に慣らしていく方法が効果的です。まずは保護者が抱いたまま、相手と少し距離を置いて話す。こどもが落ち着いてきたら、徐々に距離を縮める。相手には最初は話しかけず、こどもから視線が向いたら優しく笑顔を見せてもらうなど、こどものペースに合わせて進めます。
こどもの気持ちを受け止め、安心できる環境を保ちながら段階的に関わっていくことが、人見知りへの基本的な対応方法です。
家族ができること
家族は、こどもが安心して人と関わる土台を作る役割があります。
日常的に様々な人と接する機会を、無理のない範囲で作ることが有効です。公園で他のこどもや保護者と挨拶を交わす、買い物で店員さんに「ありがとう」と言うなど、日常の中での穏やかな交流を増やしていきます。ただし、これも無理強いせず、こどものペースで進めることが大切です。
保護者自身がリラックスして人と接する姿を見せることも重要です。こどもは保護者の行動を見て学びます。保護者が他の人と楽しそうに話している様子を見ることで、「この人は安全なんだ」と理解しやすくなります。
絵本や写真を使って、人の顔に親しむ機会を作ることも効果的です。様々な表情の写真を見せたり、人が出てくる絵本を読んだりすることで、多様な顔に慣れていきます。特に、会う予定のある祖父母や親戚の写真を日常的に見せておくと、実際に会ったときの人見知りが軽減されることがあります。
こどもが少しでも進歩を見せたときは、たくさん褒めてあげましょう。「今日は○○さんを見られたね」「手を振れたね」など、小さな一歩を認めることで、こどもは自信を持てるようになります。
家族間で対応を統一することも大切です。ある人は無理に抱かせようとし、別の人はこどもを尊重するという対応のばらつきは、こどもを混乱させます。家族全員が同じ方針で接することで、こどもは安心して成長できます。
家族が一貫した温かい姿勢でこどもを見守ることが、人見知りを乗り越える大きな力となります。
周囲の人にお願いしたいこと
人見知りのこどもと接する周囲の人にも、配慮をお願いする必要があります。
まず、いきなり顔を近づけたり、抱っこしようとしたりしないようお願いしましょう。人見知りのこどもにとって、急に知らない人が近づいてくることは大きな恐怖です。最初は少し距離を置いて、こどもが慣れるのを待ってもらうようお願いします。
大きな声や急な動きも避けてもらいましょう。「かわいいね!」と大声で話しかけたり、急に手を伸ばしたりすることは、こどもを驚かせます。穏やかなトーンで、ゆっくりとした動作で接してもらうことが大切です。
こどもから視線が向くまで待ってもらうこともお願いします。こどもが自分から相手を見る、興味を示すといった行動が見られたら、そのタイミングで優しく笑顔を返してもらいます。焦らず、こどものペースに合わせることが何より重要です。
祖父母など、頻繁に会う人には、根気強く接してもらうようお願いしましょう。最初は泣かれても、定期的に会い続けることで、徐々に慣れていきます。会うたびに少しずつ距離を縮めていく、最初は保護者と一緒に遊ぶところから始めるなど、段階的なアプローチが効果的です。
周囲の人がこどものペースを尊重し穏やかに接することで、人見知りは徐々に和らいでいきます。
保護者としては、いつまで続くのか気になるところでもあります。
人見知りはいつまで続くのか
人見知りは多くの場合、1歳から1歳半頃にピークを迎え、その後徐々に落ち着いていきます。
人見知りの期間には個人差がありますが、一般的には生後6か月頃に始まり、1歳から1歳半頃が最も激しくなります。この時期は愛着形成が深まる時期であり、同時に認知能力も急速に発達するため、人見知りが強く現れやすいのです。
1歳半を過ぎると、徐々に人見知りは落ち着き始めます。これは、経験を重ねることで「知らない人でも危険ではない」と学習していくためです。また、言葉の理解が進み、保護者から「大丈夫だよ」と説明されると安心できるようになることも、人見知りの軽減につながります。
2歳から3歳頃になると、ほとんどのこどもで人見知りは大幅に改善します。この時期には社会性が発達し、他のこどもへの興味が高まります。公園で他のこどもと遊ぶ、保育園で友達ができるなど、人との関わりが楽しいものだと学んでいくのです。
ただし、3歳を過ぎても人見知りが続くこともあります。これは性格や気質によるもので、慎重で内向的な性格のこどもは、成長しても初対面の人には緊張する傾向があります。しかし、これは幼児期の人見知りとは少し性質が異なり、「恥ずかしがり屋」や「慎重な性格」といった個性として捉えることができます。
人見知りが完全になくなる時期は、一概には言えません。多くの場合、就学前後には日常生活に支障がない程度まで落ち着きますが、大人になっても初対面の人には緊張するという人もいます。これは人見知りというより、性格や社交スタイルの問題です。
人見知りが長く続いても、日常生活や発達に問題がなければ、過度に心配する必要はありません。ただし、3歳を過ぎても極度に人を怖がる、保護者以外とは全く関われない、集団生活に大きな支障があるといった場合は、一度専門家に相談してみるとよいでしょう。
人見知りは一時的な発達段階であり、こどもの成長とともに必ず変化していきます。焦らず、こどものペースを尊重しながら見守ることが大切です。人見知りを通して、こどもは「安心できる人」と「まだ知らない人」を区別する力を育て、やがて適切な距離感で人と関わる社会性を身につけていきます。保護者の温かい理解と適切なサポートが、こどもの健やかな成長を支える基盤となるのです。
監修

略歴
| 2017年 | 本田右志理事長より右脳記憶教育講座を指南、「JUNKK認定マスター講師」取得 |
|---|---|
| 2018年 | 幼児教室アップルキッズをリビングサロンとして開講 |
| 2020年 | 佐々木進学教室Tokiwaみらい内へ移転、「佐々木進学教室幼児部」として再スタート |
| 2025年 | 一般社団法人 日本右脳記憶教育協会(JUNKK)代表理事に就任 |


