これまで誰に抱かれても平気だった赤ちゃんが、突然知らない人を見て泣くようになることがあります。
祖父母に会っても泣く、買い物中に声をかけられると泣く、そんな変化に戸惑う保護者は多いでしょう。
このような変化は成長の証であり、脳の発達によって起こる自然な現象です。
月齢によって人見知りの現れ方は異なり、その理由を理解することで適切な対応ができるようになります。
この記事では、赤ちゃんの人見知りについて、月齢別の特徴と泣く理由を詳しく解説します。
赤ちゃんの人見知りとは?
赤ちゃんの人見知りとは、特定の養育者以外の人に対して警戒心や恐怖心を示し、泣いたり顔を背けたりする反応のことです。
人見知りは英語で「stranger anxiety(見知らぬ人への不安)」と呼ばれ、世界中の赤ちゃんに見られる普遍的な発達現象です。これまで誰が抱いても笑っていた赤ちゃんが、ある時期から知らない人や久しぶりに会う人に対して、明らかな拒否反応を示すようになります。泣く、顔をそむける、保護者にしがみつく、目をそらすなど、様々な形で人見知りは現れます。
人見知りが起こるのは、赤ちゃんの脳が発達し、人の顔を識別できるようになった証拠です。生後間もない頃は、顔の輪郭や明暗のコントラストしか認識できませんでしたが、生後数か月を経ると、目や鼻、口の配置といった細かい特徴まで見分けられるようになります。そして「いつも見る顔」と「初めて見る顔」を区別できるようになるのです。
人見知りは決してネガティブな現象ではありません。むしろ、赤ちゃんが特定の養育者との間に愛着を形成し、その人を「安全基地」として認識している証です。「この人は自分を守ってくれる」という信頼関係があるからこそ、それ以外の人に対して警戒心を抱くのです。
赤ちゃんの人見知りには個人差があり、激しく泣く赤ちゃんもいれば、軽く顔をそむける程度の赤ちゃんもいます。また、全く人見知りをしない赤ちゃんもいます。こうした違いは、赤ちゃんの生まれ持った気質や育った環境によるもので、どれが正常でどれが異常ということはありません。
赤ちゃんの人見知りは、発達の重要な節目であり、心の成長を示すサインなのです。
次に、なぜ赤ちゃんが人見知りで泣くのか、その理由を見ていきましょう。
赤ちゃんが人見知りで泣く理由
赤ちゃんが人見知りで泣くのは、脳の発達と感情の変化が関係しています。
人見知りで泣くという行動は、赤ちゃんにとって自然な防衛反応です。赤ちゃんは言葉で「怖い」「不安だ」と伝えることができないため、泣くことで自分の感情を表現し、保護者に助けを求めます。見慣れない顔を見たときに感じる不安や恐怖が、泣きという形で表れるのです。
認知能力の発達
赤ちゃんが人見知りで泣く最も大きな理由は、認知能力が発達したことです。
生後6か月頃になると、視覚野が急速に発達し、人の顔を詳細に認識できるようになります。目の形、鼻の高さ、口の大きさなど、顔の細かい特徴を識別し、記憶と照合する能力が備わってくるのです。この能力によって、赤ちゃんは「見慣れた顔」と「見慣れない顔」を区別できるようになります。
記憶力の発達も関係しています。短期記憶が機能し始めることで、赤ちゃんは「さっきまでお母さんがいたのに、今この人は違う」ということが分かるようになります。この比較能力が、人見知りを引き起こす要因のひとつです。
さらに、扁桃体という感情を司る脳の部位も発達します。扁桃体は恐怖や不安といった感情を生み出す役割を持っており、見慣れない顔を「未知のもの=危険かもしれない」と判断し、警戒信号を送ります。この信号が、泣くという行動を引き起こすのです。
一方で、前頭葉という思考や判断を司る部位はまだ未熟です。そのため、「知らない人だけど危険ではない」という合理的な判断ができず、単純に「知らない=怖い」という反応になってしまいます。この脳の発達のアンバランスさが、人見知りの激しさにつながっています。
愛着の深まり
愛着形成が進むことも、赤ちゃんが人見知りで泣く理由です。
愛着とは、赤ちゃんが特定の養育者との間に築く情緒的な絆のことです。生後数か月の間、一貫したケアを受けることで、赤ちゃんは「この人は自分を守ってくれる」「この人がいれば安心だ」という信頼感を育みます。この信頼感が深まるほど、その人への依存度が高まります。
愛着が深まると、赤ちゃんは愛着対象者を「安全基地」として認識します。この安全基地があるからこそ、周囲の世界を探索できるのです。しかし、知らない人が近づいてきたとき、赤ちゃんは「この人は安全基地ではない」と判断し、不安を感じます。その不安が、泣きという形で表れます。
特に生後6か月から1歳頃は、愛着形成の重要な時期です。この時期に特定の養育者との絆が深まることで、赤ちゃんは情緒的な安定を得ます。人見知りで激しく泣くということは、それだけ保護者への愛着が深く形成されている証でもあるのです。
分離不安も関係しています。愛着が深まると、保護者から離れることへの不安が強くなります。知らない人に抱かれることは、保護者から引き離されることを意味するため、強い恐怖を感じて泣くのです。この分離不安は、愛着形成が順調に進んでいることを示す健全なサインです。
赤ちゃんが人見知りで泣くのは、脳の発達と心の成長が同時に進んでいる証なのです。
こうした理由を理解すると、月齢によって人見知りの現れ方が異なることが見えてきます。
月齢別の人見知りの特徴
赤ちゃんの人見知りは、月齢によって現れ方が大きく異なります。
人見知りは一律に現れるものではなく、赤ちゃんの発達段階に応じて変化していきます。月齢ごとの特徴を理解することで、我が子の行動が正常な発達過程にあることが分かり、安心して対応できるようになります。
生後4か月から6か月頃
この時期は、人見知りの兆しが現れ始める時期です。
生後4か月頃から、赤ちゃんの視力が向上し、顔の認識能力が高まります。それまでぼんやりとしか見えていなかった顔が、はっきりと見えるようになり、細かい特徴まで識別できるようになります。この変化により、「いつも見る顔」への認識が深まり始めます。
この時期の人見知りは、まだ軽微なことが多いです。知らない人をじっと見つめる、少し緊張した表情を見せる、顔をそむける程度の反応が中心です。激しく泣くことは少なく、どちらかといえば「警戒している」様子が見られます。
ただし、個人差が大きい時期でもあります。早い赤ちゃんでは、この時期から明確な人見知りを示すこともあります。逆に、まだ誰にでもニコニコしている赤ちゃんも多く、人見知りの兆候が全く見られないこともあります。
この時期は、人見知りの準備段階ともいえます。赤ちゃんの脳は急速に発達しており、近い将来、より明確な人見知りが現れる準備をしているのです。保護者の顔をじっと見つめる時間が増える、保護者が視界から消えると探す素振りを見せるなど、愛着形成も進んでいます。
生後4か月から6か月頃は人見知りの兆しが現れ始める時期であり、赤ちゃんの認識能力と愛着形成が進んでいる証です。
生後7か月から10か月頃
この時期が、人見知りのピークです。
生後7か月頃になると、ほとんどの赤ちゃんに明確な人見知りが現れます。知らない人を見ると泣く、久しぶりに会う祖父母にも泣く、保護者以外の人に抱かれることを激しく拒否するなど、はっきりとした反応が見られるようになります。
この時期の人見知りは、非常に激しくなることがあります。それまで平気だった人に対しても、突然泣き出すことがあり、保護者も周囲も戸惑うことが多いでしょう。買い物中に知らない人に声をかけられただけで泣く、病院で医師や看護師を見て泣くなど、日常生活にも影響が出ることがあります。
お座りやハイハイができるようになり、行動範囲が広がる時期でもあります。しかし、その一方で保護者への依存も強まります。少し離れただけで泣く、常に保護者の姿を確認しようとするなど、分離不安も強く現れます。
この時期の赤ちゃんは、保護者の表情や雰囲気を敏感に読み取ります。保護者が不安そうにしていると、赤ちゃんもその不安を感じ取り、人見知りがさらに強くなることがあります。逆に、保護者が落ち着いて接していると、赤ちゃんも少し安心できることがあります。
人見知りの対象も広がります。それまでは完全な知らない人だけだったのが、この時期には「たまに会う人」「久しぶりに会う人」にも警戒心を示すようになります。月に一度会う祖父母、数週間ぶりに会う親戚なども、人見知りの対象になることがあります。
生後7か月から10か月頃は人見知りが最も激しくなる時期であり、愛着と分離不安が強く現れる発達段階です。
生後11か月から1歳頃
この時期は、人見知りが少しずつ落ち着き始める時期です。
1歳に近づくと、経験が増え、様々な人の顔を見る機会も増えてきます。その経験から、「知らない人でも必ずしも危険ではない」と少しずつ学習していきます。また、保護者が他の人と楽しそうに話している様子を見ることで、「この人は安全なんだ」と理解し始めます。
人見知りの頻度や激しさは、徐々に減っていきます。ただし、完全になくなるわけではありません。初めて会う人にはまだ警戒心を示しますが、時間をかければ慣れることができるようになります。最初は泣いていても、10分、20分と一緒にいるうちに、徐々に緊張が解けていく様子が見られます。
興味や好奇心も強くなる時期です。人見知りをしながらも、知らない人が持っているものに興味を示したり、遠くから様子をうかがったりするなど、「怖いけど気になる」という複雑な感情が見られるようになります。
言葉の理解も進む時期です。「大丈夫だよ」「優しい人だよ」といった保護者の言葉を理解し始め、少し安心できるようになります。また、保護者が笑顔で接している人には、自分も笑顔を見せるようになるなど、社会的参照(保護者の反応を見て判断する能力)も発達します。
生後11か月から1歳頃になると経験の蓄積と理解力の向上により、人見知りは徐々に落ち着いていく時期に入ります。
しかし、中には特に激しく人見知りをする赤ちゃんもいます。
赤ちゃんの人見知りが激しいとき
人見知りが特に激しい赤ちゃんには、慎重な気質や環境的な要因が関係していることがあります。
人見知りの激しさには大きな個人差があります。軽く顔をそむける程度の赤ちゃんもいれば、激しく泣いて暴れるほどの反応を示す赤ちゃんもいます。こうした違いは、決して保護者の育て方の問題ではなく、赤ちゃんの生まれ持った気質が大きく影響しています。
慎重で警戒心の強い気質の赤ちゃんは、人見知りが激しくなる傾向があります。新しい環境や刺激に対して敏感で、変化を好まない性格の赤ちゃんは、見慣れない人に対しても強い警戒心を示します。これは性格の問題であり、悪いことではありません。慎重な性格は、将来的には慎重に物事を判断できる力につながります。
育った環境も影響します。普段から家族だけで過ごすことが多く、外出も少ない赤ちゃんは、人見知りが激しくなることがあります。見慣れた顔が限られているため、それ以外の顔に対する警戒心が強くなるのです。これは環境の違いによるもので、決して問題ではありません。
保護者への愛着が非常に深い赤ちゃんも、人見知りが激しくなります。特定の保護者への依存度が高いほど、その人以外への拒否反応も強くなります。これは愛着形成が順調に進んでいる証であり、むしろ健全な発達のサインです。
過去の経験も関係することがあります。以前、知らない人に急に抱かれて怖い思いをした、大きな声で話しかけられて驚いたなど、ネガティブな経験があると、人見知りが強化されることがあります。赤ちゃんは経験から学習するため、一度怖い思いをすると、似た状況で警戒心を強めるのです。
人見知りが激しいからといって、無理に克服させようとする必要はありません。赤ちゃんのペースを尊重し、安心できる環境を提供することが大切です。時間をかけてゆっくりと慣れていけば、徐々に人見知りは落ち着いていきます。
人見知りが特に激しい赤ちゃんは気質や環境による個性であり、焦らず温かく見守ることが大切です。
激しい人見知りへの対応も含めて、適切な接し方を見ていきましょう。
赤ちゃんの人見知りへの接し方
赤ちゃんの人見知りには、気持ちに寄り添った温かい対応が求められます。
人見知りをする赤ちゃんに対して、最も大切なのは無理強いをしないことです。泣いているのに知らない人に無理やり抱かせる、嫌がっているのに近づけるといった対応は、赤ちゃんの恐怖を増幅させ、人見知りを悪化させる可能性があります。赤ちゃんが嫌がるときは、その気持ちを尊重することが何より重要です。
赤ちゃんの気持ちを受け止めることから始めましょう。「怖かったね」「知らない人でびっくりしたね」と、赤ちゃんの感情を言葉にして伝えます。たとえ赤ちゃんが言葉を理解していなくても、保護者が自分の気持ちを分かってくれていると感じることで、安心感を得られます。
抱っこを求めてきたら、すぐに応じてあげましょう。人見知りをしているときの赤ちゃんにとって、保護者の腕の中は唯一の安全地帯です。「甘やかしすぎではないか」と心配する必要はありません。この時期にしっかりと安心感を与えることが、将来の情緒の安定につながります。
初対面の人と会うときは、段階的に慣らしていきます。まずは保護者が抱いたまま、相手と少し距離を置いて話をします。赤ちゃんが落ち着いてきたら、徐々に距離を縮めます。相手には、最初は赤ちゃんに話しかけず、保護者と普通に会話してもらいます。赤ちゃんから視線が向いたら、優しく笑顔を返してもらうところから始めます。
赤ちゃんが興味を示したタイミングを逃さないことも大切です。人見知りをしながらも、相手が持っているものに興味を示したり、チラチラと見たりすることがあります。そのタイミングで、相手にゆっくりと関わってもらうと、スムーズに慣れることがあります。
保護者自身がリラックスすることも重要です。赤ちゃんは保護者の表情や雰囲気を敏感に感じ取ります。保護者が緊張していると、赤ちゃんも不安を感じます。「人見知りは成長の証」と捉え、焦らず穏やかに対応することで、赤ちゃんも落ち着きやすくなります。
周囲の人にも協力をお願いしましょう。いきなり顔を近づけない、大きな声で話しかけない、急に触らないなど、赤ちゃんのペースに合わせた接し方をお願いします。特に祖父母には、最初は泣かれても根気強く接してもらうようお願いし、徐々に慣れていけることを伝えます。
人見知りを叱ったり、否定したりすることは絶対に避けましょう。「泣かないの」「恥ずかしいからやめなさい」といった言葉は、赤ちゃんの感情を否定することになります。人見知りは赤ちゃんの意図的な行動ではなく、自然な感情の表れです。その感情を受け止め、寄り添うことが、健全な発達を支えます。
赤ちゃんの人見知りは、脳と心が健全に成長している証であり、特定の保護者への深い愛着が形成されているサインです。月齢によって現れ方は異なりますが、いずれも正常な発達過程の一部です。
激しい人見知りに戸惑うこともあるかもしれませんが、赤ちゃんの気持ちに寄り添い、無理強いせず温かく見守ることで、時間とともに自然と落ち着いていきます。焦らず、赤ちゃんのペースを尊重しながら、この成長の時期を一緒に過ごしていきましょう。
監修

略歴
| 2017年 | 本田右志理事長より右脳記憶教育講座を指南、「JUNKK認定マスター講師」取得 |
|---|---|
| 2018年 | 幼児教室アップルキッズをリビングサロンとして開講 |
| 2020年 | 佐々木進学教室Tokiwaみらい内へ移転、「佐々木進学教室幼児部」として再スタート |
| 2025年 | 一般社団法人 日本右脳記憶教育協会(JUNKK)代表理事に就任 |


