夜中にこどもが突然激しく泣き出したり、叫び声を上げたりする様子に驚いた経験はありませんか。
いつもの夜泣きとは違う、目を開けているのに反応がない、汗びっしょりで暴れているなど、異常な様子に不安を感じる保護者は少なくありません。
それはもしかすると「夜驚症」と呼ばれる睡眠障害かもしれません。
夜泣きと夜驚症は一見似ているようで、実はまったく異なる現象です。
この記事では、両者の違いを明確にし、それぞれの見分け方と適切な対処法について詳しく解説します。
夜泣きと夜驚症の違いとは
夜泣きと夜驚症は、どちらも夜間にこどもが泣く現象ですが、原因も症状もまったく異なるものです。
夜泣きは主に乳幼児期に見られる現象で、こどもが夜中に目を覚まして泣くことを指します。これは正常な発達過程の一部であり、睡眠サイクルが未熟なために起こります。一方、夜驚症は睡眠障害の一種で、こどもが深い睡眠状態から突然部分的に覚醒し、激しい恐怖反応を示す状態です。医学的には「睡眠時驚愕症」とも呼ばれ、レム睡眠とノンレム睡眠の切り替えがうまくいかないときに発生します。
最も大きな違いは、こどもの意識状態です。夜泣きの場合、こどもは完全に目覚めており、保護者を認識して反応します。抱っこすれば落ち着いたり、声をかければ反応したりします。しかし夜驚症の場合、こどもは目を開けていても実際には深い睡眠状態にあり、保護者の存在に気づいていません。声をかけても反応せず、抱っこしようとすると激しく抵抗することもあります。
発生する時間帯にも違いがあります。夜泣きは夜間のどの時間帯でも起こりますが、夜驚症は入眠後1〜3時間以内、つまり深いノンレム睡眠中に起こることがほとんどです。また、夜泣きは数分から数十分続くことがありますが、夜驚症は通常5〜15分程度で自然に収まります。
夜泣きの特徴
夜泣きは生後4か月頃から2歳頃までに多く見られる現象です。こどもは目を覚まして泣いており、保護者の顔を見たり、抱っこを求めたりします。泣き方は個人差がありますが、比較的落ち着いた泣き方から激しい泣き方まで様々です。
夜泣きの原因は、睡眠サイクルの未熟さ、日中の刺激、空腹、おむつの不快感、暑さや寒さなど多岐にわたります。こどもは保護者とのコミュニケーションを求めており、適切に対応すれば落ち着くことがほとんどです。翌朝、こどもは夜泣きしたことを覚えていないことが多いですが、これは年齢的な記憶の発達によるものです。
夜泣きへの対応として、抱っこや授乳、おむつ替え、室温調整などが効果的です。こどもの要求に応えることで、徐々に落ち着いて再び眠りにつきます。
夜驚症の特徴
夜驚症は3歳から8歳頃の幼児期から学童期に多く見られます。こどもは突然起き上がり、目を大きく見開いて恐怖に怯えた表情を見せます。叫び声を上げたり、「怖い」「嫌だ」などと叫んだりすることもあります。
最も特徴的なのは、こどもが保護者を認識していない点です。目の前に保護者がいても視線が合わず、名前を呼んでも反応しません。心拍数が上がり、呼吸が荒くなり、全身に汗をかくなど、強い身体反応を伴います。暴れたり、ベッドから降りようとしたりすることもあり、危険を伴う場合もあります。
夜驚症のもうひとつの大きな特徴は、翌朝こどもがまったく覚えていないことです。保護者が「昨夜すごく怖がっていたね」と話しても、こども本人は何も記憶していません。これは、夜驚症がノンレム睡眠という深い眠りの最中に起こるため、脳が記憶を形成していないからです。
夜泣きと夜驚症では、こどもの様子も保護者の対応方法もまったく異なります。
次に、なぜ夜驚症が起こるのか、その原因について見ていきましょう。
夜驚症が起こる原因
夜驚症は、睡眠サイクルの移行期に脳が適切に覚醒できないことで起こる現象です。
人間の睡眠は、浅い眠りのレム睡眠と深い眠りのノンレム睡眠が交互に繰り返されます。夜驚症は、深いノンレム睡眠から浅い睡眠へ移行する際に、脳が中途半端な覚醒状態になることで発生します。脳の一部は覚醒しているのに、意識を司る部分はまだ眠っているという不完全な状態が、あの恐怖反応を引き起こすのです。
幼児期から学童期にかけて夜驚症が多い理由は、この年齢の脳がまだ発達途中であり、睡眠サイクルの制御が未熟だからです。大人になるにつれて脳の成熟とともに、睡眠の切り替えがスムーズになり、夜驚症は自然と消失していきます。
夜驚症を引き起こしやすくする要因もいくつか知られています。最も大きな要因は睡眠不足です。十分な睡眠が取れていないと、深いノンレム睡眠が長くなり、そこからの覚醒時に夜驚症が起こりやすくなります。昼寝をしなかった日や、いつもより遅く寝た日の夜に夜驚症が起こることが多いのはこのためです。
日中の強いストレスや興奮も誘因となります。幼稚園や保育園での出来事、引っ越しや入園などの環境変化、家族の不和など、こどもが精神的な負担を感じている時期に夜驚症が現れやすくなります。運動会や発表会の前後など、こどもが極度に興奮した日の夜にも起こりやすい傾向があります。
発熱時にも夜驚症が起こりやすくなります。体温が上がると脳の活動に変化が生じ、睡眠サイクルが乱れやすくなるためです。風邪を引いている時期に夜驚症が見られることも珍しくありません。
遺伝的な要因も指摘されています。親や兄弟に夜驚症の経験がある場合、こども自身も夜驚症を経験する確率が高くなります。これは睡眠パターンや脳の成熟速度に遺伝的な影響があるためと考えられています。
夜驚症の原因を理解すると、夜泣きとの違いがより明確になります。
それでは、実際に夜間にこどもが泣いたとき、それが夜泣きなのか夜驚症なのか、どのように見分ければよいのでしょうか。
夜驚症と夜泣きの見分け方
夜泣きと夜驚症を見分けるポイントはいくつかあり、観察することで判断できます。
最も分かりやすい見分け方は、こどもが保護者を認識しているかどうかです。名前を呼んだときに視線が合うか、抱っこしたときに体を預けてくるか、声をかけたときに泣き方が変わるかなどを確認してください。夜泣きであればこれらの反応が見られますが、夜驚症の場合は保護者の存在にまったく気づいていません。
発生時刻も重要な手がかりです。寝かしつけてから1〜2時間後、だいたい夜の9時から11時頃に起こる場合は夜驚症の可能性が高くなります。この時間帯は最も深いノンレム睡眠に入る時間帯だからです。一方、夜中の2時や3時、明け方近くに泣く場合は夜泣きである可能性が高いでしょう。
こどもの身体反応も判断材料になります。夜驚症では、顔が紅潮し、大量の汗をかき、呼吸が荒く、心臓がドキドキしているのが分かるほどです。瞳孔が開いて目が虚ろになり、まるで何か恐ろしいものを見ているような表情をします。夜泣きの場合は、このような極端な身体反応は見られません。
泣いている最中の様子も異なります。夜驚症では、こどもは座ったまま、あるいは立ったまま固まっていることが多く、時には部屋の中を歩き回ることもあります。保護者が触ろうとすると激しく抵抗したり、押しのけようとしたりします。夜泣きの場合は、抱っこされることを求めたり、少なくとも抱っこを拒否することはありません。
翌朝の記憶も決定的な違いです。朝になって「昨夜怖い夢見た?」と聞いてみてください。夜驚症の場合、こどもはまったく覚えていないか、「何も覚えてない」と答えます。夜泣きの場合は、年齢によっては「怖い夢見た」「お母さんがいなくて泣いた」など、何かしら記憶していることがあります。
持続時間も参考になります。夜驚症は通常5〜15分程度で、長くても20分以内には自然に収まります。そして突然泣き止んで、何事もなかったかのようにまた眠りにつきます。夜泣きは短いこともあれば、30分以上続くこともあり、時間に幅があります。
これらの特徴を総合的に見ることで、夜泣きと夜驚症を区別できます。
見分けがついたら、次は適切な対処が必要で、特に夜驚症の場合、通常の夜泣き対応とは異なるアプローチが求められます。
夜驚症が起きたときの対処法
夜驚症への対処は、夜泣きへの対応とはまったく異なり、基本的には見守ることが最も大切です。
夜驚症が起きたとき、保護者としては何とかしてあげたいと思うものですが、実はこどもは深く眠っている状態なので、無理に起こそうとしたり、激しく揺さぶったりすることは逆効果です。むしろそうした刺激が混乱を深め、症状を長引かせる可能性があります。
最も大切なのは、こどもが怪我をしないように環境を整えることです。夜驚症の最中、こどもは周囲が見えていないため、ベッドから転落したり、家具にぶつかったりする危険があります。そっとベッドの端に移動させる、周囲の危険物を片付けるなど、安全を確保してください。階段の近くで寝ている場合は、階段に行かないよう、優しく方向を変えてあげることも必要です。
声をかけるときは、大きな声ではなく、優しく穏やかなトーンで話しかけます。「大丈夫だよ」「ここにいるよ」といった短い言葉を繰り返すことで、こどもの脳に安心感を与えられる可能性があります。ただし、反応がなくても気にする必要はありません。こどもは本当に眠っているのですから。
抱きしめたい気持ちは分かりますが、夜驚症の最中は抱っこを避けた方が無難です。こどもが激しく抵抗して、保護者自身が怪我をすることもあります。それよりも、そばに寄り添い、優しく背中や腕に手を置く程度にとどめましょう。もしこどもが落ち着いて抱っこを受け入れるようなら、そっと抱きしめてあげても構いません。
部屋の照明は、明るくしすぎないようにします。真っ暗よりは薄明かりがある方が保護者が様子を見やすいですが、明るすぎるとこどもの脳が完全に覚醒してしまい、その後寝つきにくくなることがあります。間接照明や常夜灯程度の明るさが適切です。
通常、5〜15分程度で夜驚症は自然に収まります。こどもは突然静かになり、そのままぐっすり眠りにつきます。この時点で無理に起こす必要はありません。そっと布団をかけ直し、寝心地を整えてあげれば十分です。
やってはいけない対応
夜驚症への対応で、絶対に避けるべきことがあります。
まず、無理やり起こそうとしないことです。「起きて!」「目を覚まして!」と大声で呼びかけたり、体を激しく揺さぶったりすることは、こどもをさらに混乱させます。夜驚症は深い睡眠からの不完全な覚醒なので、無理に起こそうとすると脳がさらに混乱し、症状が悪化する可能性があります。
こどもを叱ったり、怒ったりすることも避けてください。夜驚症はこどもが意図的に起こしているわけではなく、脳の発達過程で起こる生理現象です。「静かにしなさい」「泣き止みなさい」といった叱責は、こどもにとって何の意味も持たず、保護者のストレスを増すだけです。
翌朝、夜驚症のことを詳しく話すことも避けた方がよいでしょう。「昨夜すごく怖がっていたね」「大きな声で叫んでいたよ」といった話は、こども自身に記憶がないため、不安や恥ずかしさを感じさせるだけです。特に年齢が上がるにつれ、自分がコントロールできない状態を知ることは、精神的な負担になります。
翌朝の接し方
夜驚症の翌朝は、特別な対応は必要ありません。
こどもは夜驚症のことをまったく覚えていないため、いつも通りの朝を迎えさせてあげることが大切です。わざわざ「昨夜大丈夫だった?」と聞く必要もありません。こどもが自分から「変な夢見た」と話してきた場合は、優しく聞いてあげる程度で十分です。
ただし、保護者が睡眠不足でイライラしているときは、無理をせずに周囲に助けを求めることも大切です。夜驚症が頻繁に起こると、保護者自身の睡眠も妨げられ、心身ともに疲れてしまいます。パートナーや家族に協力を求める、日中に少し休む時間を作るなど、自分自身のケアも忘れないでください。
夜驚症への適切な対処法が分かると、過度に心配する必要はないことが理解できます。
それでも、いつまで続くのか不安に感じる保護者も多いでしょう。
夜驚症はいつまで続くのか
夜驚症は多くの場合、成長とともに自然に消失する一時的な現象です。
夜驚症が最も多く見られるのは3歳から8歳頃で、特に4歳から6歳がピークです。この時期は脳の発達が急速に進む時期であり、睡眠サイクルの制御機能がまだ未熟なため、夜驚症が起こりやすくなります。しかし、ほとんどの場合、小学校高学年になる頃には自然に治まります。
夜驚症の頻度も変化します。最初は週に数回起こることもありますが、徐々に頻度が減っていき、月に1〜2回、さらには数か月に1回というように少なくなっていきます。完全に消失するまでの期間は個人差がありますが、多くの場合、1〜2年以内には大幅に改善します。
思春期に入る頃には、ほぼすべてのこどもで夜驚症は見られなくなります。これは脳の成熟により、睡眠サイクルの切り替えがスムーズになるためです。大人になっても夜驚症が続くケースは極めて稀で、その場合は他の睡眠障害や精神的な問題が関係している可能性があるため、専門医への相談が必要です。
夜驚症の頻度や激しさが増している場合、週に3回以上起こる場合、昼間の生活に支障が出ている場合などは、小児科や睡眠外来への相談を検討してください。また、夜驚症以外にも、いびきがひどい、呼吸が止まる、日中極度に眠そうにしているなどの症状がある場合は、睡眠時無呼吸症候群など他の睡眠障害の可能性もあります。
ほとんどのケースで夜驚症は治療の必要がなく、時間が解決してくれる問題です。保護者としては、焦らず見守る姿勢が大切です。こどもの脳は日々成長しており、睡眠の質も確実に向上していきます。
夜驚症は自然に治まるとはいえ、できれば予防したいと考えるのが親心です。
最後に、夜驚症を予防するために日常生活でできることを見ていきましょう。
夜驚症を予防するためにできること
夜驚症を完全に防ぐことは難しいですが、発生頻度を減らすための工夫はいくつかあります。
最も効果的なのは、十分な睡眠時間を確保することです。睡眠不足は夜驚症の最大の誘因であるため、こどもの年齢に応じた適切な睡眠時間を確保しましょう。3〜5歳なら10〜13時間、6〜12歳なら9〜12時間が目安です。昼寝が必要な年齢であれば、昼寝も適度にさせてあげることが大切です。
規則正しい生活リズムを作ることも重要です。毎日同じ時間に起き、同じ時間に寝ることで、体内時計が整い、睡眠サイクルが安定します。週末だけ夜更かしするといった不規則な生活は、夜驚症を引き起こしやすくします。
就寝前の過ごし方も見直してみましょう。寝る1〜2時間前からは、テレビやスマートフォン、タブレットなどの画面を避けます。ブルーライトが脳を覚醒させ、深い睡眠を妨げるためです。代わりに、絵本を読む、静かな音楽を聴く、ぬるめのお風呂に入るなど、リラックスできる活動を取り入れましょう。
日中のストレスを軽減することも予防につながります。こどもが何か悩みを抱えていないか、幼稚園や保育園で困っていることはないか、日頃からコミュニケーションを取ることが大切です。また、こどもの性格や発達段階に合わない過度な期待やプレッシャーを与えないよう注意しましょう。
激しい運動や興奮する遊びは、就寝の2〜3時間前までに済ませます。寝る直前に体や脳が興奮状態にあると、深い睡眠に入った後の覚醒時に夜驚症が起こりやすくなります。夕方以降は、穏やかな遊びを心がけるとよいでしょう。
寝室の環境を整えることも大切です。室温は20〜22度程度、湿度は50〜60%に保ち、快適な睡眠環境を作ります。真っ暗が怖いこどもには常夜灯を使用し、安心して眠れるようにしましょう。また、騒音が気になる場合は、ホワイトノイズを小さな音量で流すことも効果的です。
もし夜驚症が特定の時間帯に起こる傾向がある場合は、「予定覚醒法」という方法も試せます。これは、夜驚症が起こる15〜30分前に、こどもを軽く揺すって浅い覚醒状態にし、再び眠らせるという方法です。これにより深いノンレム睡眠からの急激な覚醒を防ぎ、夜驚症を予防できることがあります。ただし、この方法は専門医の指導のもとで行うことをおすすめします。
夜驚症を予防する日常の工夫は、こどもの睡眠の質全体を向上させ、健やかな成長にもつながります。焦らず、できることから少しずつ取り入れていくことで、夜驚症の頻度を減らし、こども自身も保護者もより良い睡眠を得られるようになるでしょう。夜泣きと夜驚症の違いを正しく理解し、それぞれに適した対応をすることが、こどもの安心と健やかな発達を支える鍵となります。
監修

略歴
| 2017年 | 本田右志理事長より右脳記憶教育講座を指南、「JUNKK認定マスター講師」取得 |
|---|---|
| 2018年 | 幼児教室アップルキッズをリビングサロンとして開講 |
| 2020年 | 佐々木進学教室Tokiwaみらい内へ移転、「佐々木進学教室幼児部」として再スタート |
| 2025年 | 一般社団法人 日本右脳記憶教育協会(JUNKK)代表理事に就任 |



