非認知能力と認知能力の違いとは?両方を伸ばす育て方について!

非認知能力

非認知能力と認知能力の違いについて、正確に理解している保護者は意外と少ないかもしれません。

どちらもこどもの成長に重要な能力ですが、その性質や育て方、測定方法は大きく異なります。

学力テストで測れる能力だけに注目していると、人生で本当に必要な力を見落としてしまう可能性があります。

一方で、それ以外の能力だけを重視して学力をおろそかにすることも、こどもの可能性を狭めてしまいます。

この記事では、非認知能力と認知能力の違いを明確にし、両方をバランスよく育てる方法について詳しく解説します。

非認知能力と認知能力の違いとは?

非認知能力と認知能力の違いは、認知能力が知識や技能など学力テストで測定できる力であるのに対し、非認知能力は忍耐力や協調性など数値化しにくい心の力である点です。

こどもの教育を考えるとき、多くの保護者はまず学力を思い浮かべるでしょう。国語、算数、理科、社会といった教科の成績、テストの点数、偏差値などは、こどもの能力を示す分かりやすい指標です。これらは認知能力と呼ばれる力に関わっています。しかし近年、認知能力だけでは測れない別の重要な能力として、非認知能力が注目されるようになりました。

認知能力とは、知識や技能、思考力など、主に学力テストやIQテストで測定できる能力のことです。具体的には、読み書きの能力、計算力、記憶力、論理的思考力、問題を解く力、言語能力、空間認識能力などが含まれます。学校教育では主にこの認知能力を育てることに重点が置かれてきました。教科書を使った授業、テストによる評価、受験制度などは、すべて認知能力を測定し、向上させるための仕組みと言えます。

一方、非認知能力とは、テストでは測れない心の力や社会的な力のことです。具体的には、自制心、忍耐力、やり抜く力(グリット)、好奇心、協調性、共感性、自己肯定感、レジリエンス(回復力)、創造性、リーダーシップ、コミュニケーション能力などが含まれます。これらは数値化が難しく、短期間で身につくものでもありませんが、人生の様々な場面で発揮される重要な力です。

両者の違いを具体的な例で見てみましょう。算数のテストで100点を取る能力は認知能力です。一方、難しい問題に何時間も粘り強く取り組む力、分からないことを友だちに聞ける協調性、失敗しても諦めずに再挑戦する忍耐力は非認知能力です。プログラミングのコードを書く技術は認知能力ですが、バグが出ても冷静に原因を探る自己管理能力、チームメンバーと協力してプロジェクトを完成させる協調性は非認知能力です。

また、発達のスピードも異なります。認知能力は比較的短期間で向上させることができ、適切な指導や訓練によって効率的に伸ばせます。例えば、漢字を繰り返し書くことで書けるようになり、計算問題を繰り返し解くことで計算力は向上します。一方、非認知能力は長期的な経験の積み重ねによって育まれ、日々の生活や人との関わりの中でゆっくりと形成されていきます。

さらに、育てる環境も異なります。認知能力は学校や塾といった教育機関で体系的に学ぶことができます。一方、非認知能力は家庭での日常生活、遊び、人間関係といった、より自然な環境の中で育まれます。親の関わり方、友だちとの遊び、習い事での経験など、日々の積み重ねが非認知能力を形成します。

このように、非認知能力と認知能力は、測定可能性、発達のスピード、育つ環境において明確な違いがあるのです。

では、それぞれの能力はどのように測定されるのか、その測り方の違いを見ていきましょう。

認知能力と非認知能力の測り方の違い

認知能力は学力テストやIQテストで客観的に測定できるのに対し、非認知能力は行動観察や質問紙調査など間接的な方法でしか測れず、数値化が困難です。

能力を測定することは、その能力の発達を把握し、適切な支援を行う上で重要です。しかし、認知能力と非認知能力では、測定の方法や難易度が大きく異なります。この違いを理解することで、なぜ非認知能力が見落とされがちなのか、そしてなぜ近年になって注目されるようになったのかが分かります。

認知能力の測定は比較的簡単です。学力テストでは、正解があり、点数として明確に数値化できます。国語のテストで80点、算数のテストで90点といった形で、能力を客観的に評価できます。IQテストも同様に、標準化された手法で知能指数として数値化されます。偏差値、学年順位、合格・不合格といった形で、認知能力は明確に測定され、比較されます。

また、認知能力のテストは再現性があります。同じテストを別の日に受けても、ほぼ同じような結果が出ます。採点者が変わっても、正解・不正解は変わりません。この客観性と再現性が、認知能力測定の大きな特徴です。

一方、非認知能力の測定は非常に難しいです。忍耐力、協調性、自己肯定感といった能力は、そもそも明確な定義が難しく、正解があるわけでもありません。そのため、直接的に測定することができず、間接的な方法に頼らざるを得ません。

非認知能力を測定する主な方法として、質問紙調査があります。例えば、「困難な状況でも諦めずに努力を続けることができる」といった質問に対して、「非常にそう思う」から「全くそう思わない」までの段階で回答してもらいます。しかし、この方法には問題があります。自己評価は主観的であり、過大評価や過小評価のバイアスがかかります。また、こどもの場合、質問の意味を正確に理解できないこともあります。

行動観察も非認知能力を測る方法の一つです。実際の行動を観察することで、協調性や自制心を評価します。例えば、マシュマロテストでは、目の前のマシュマロを我慢できる時間を測ることで、自制心を評価します。しかし、行動観察にも限界があります。観察できる場面は限られており、たまたまその日の状態によって結果が変わることもあります。また、観察者の主観が入る可能性もあります。

さらに、非認知能力は状況によって発揮される程度が異なります。学校では協調性を発揮できても、家庭では発揮できないといったこともあります。このように、非認知能力は文脈依存的であり、一つの測定方法で完全に評価することは困難です。

研究の場では、複数の評価方法を組み合わせることで、より正確に非認知能力を測定しようとしています。本人への質問紙に加えて、保護者や教師からの評価、行動観察、実験的課題などを組み合わせます。しかし、それでも認知能力ほど明確に測定することはできません。

この測定の難しさが非認知能力を見過ごしてきた理由ですが、測定しにくいからこそ意識的に育てる必要があるのです。

では、測定方法が異なるこれら2つの能力は、どのような関係にあるのでしょうか。

非認知能力と認知能力の相互関係

非認知能力と認知能力は対立するものではなく、互いに影響し合い、相乗効果を生み出す関係にあります。

非認知能力と認知能力を対立的に捉える必要はありません。「学力か人間性か」という二者択一ではなく、両方が必要であり、互いに支え合う関係にあります。実際、多くの研究が、非認知能力と認知能力の間に正の相関があることを示しています。つまり、一方が高い人は、もう一方も高い傾向にあるのです。

まず、非認知能力が認知能力の発達を促進します。好奇心が強いこどもは、自ら学ぼうとする意欲が高く、知識を積極的に吸収します。「なぜだろう?」「もっと知りたい」という内発的動機が、学習を促進します。教科書を読むよう指示されなくても、興味のある分野の本を自ら読み、深く学んでいきます。

自制心があれば、誘惑に負けずに勉強に集中でき、学習効率が上がります。ゲームをしたい、友だちと遊びたいという誘惑がある中で、宿題や予習復習に取り組むには、自分をコントロールする力が必要です。自制心が高いこどもは、計画的に学習時間を確保でき、結果として学力が向上します。

やり抜く力があれば、難しい問題にも粘り強く取り組み、最終的に理解を深めることができます。すぐに答えが分からない問題に直面したとき、諦めてしまうのか、それとも何時間も考え続けるのかで、到達する理解の深さは大きく変わります。難問に取り組む忍耐力が、高度な認知能力の獲得につながります。

自己調整能力があれば、効果的な学習方法を自ら見つけ、計画的に学習できます。「この分野は理解できているけど、あの分野は苦手だから重点的に勉強しよう」といったメタ認知的な学習ができるこどもは、効率的に学力を伸ばせます。

逆に、認知能力の向上が非認知能力を育てることもあります。勉強ができるようになると自信がつき、自己肯定感が高まります。「やればできる」という経験が、自己効力感を育てます。この自信が、他の分野でも挑戦する意欲につながります。

学習を通じて問題解決の方法を学ぶことで、人生の他の場面でも応用できる思考力が身につきます。数学で論理的思考を学ぶことは、日常生活の意思決定にも役立ちます。読書を通じて他者の視点を理解することは、共感性を育てます。

また、学校で良い成績を取ることで、努力が報われる経験をし、やり抜く力がさらに強化されます。「頑張れば結果が出る」という成功体験が、次の挑戦への動機づけとなります。

さらに、両者が統合されることで、真の学力が形成されます。知識だけあっても、それを活用する意欲や粘り強さがなければ、実社会では役に立ちません。大学で学んだ専門知識も、それを実際の仕事で活かす協調性やコミュニケーション能力がなければ、宝の持ち腐れです。

逆に、やる気だけあっても、基礎的な知識や技能がなければ、思うような成果は出せません。「頑張りたい」という気持ちがあっても、何をどう頑張ればいいのか分からなければ、空回りしてしまいます。

つまり、非認知能力と認知能力は車の両輪のような関係にあり、どちらか一方だけでは不十分で、両方がバランスよく育つことが重要なのです。

このように相互に関連し合う2つの能力ですが、その伸び方には違いがあります。

認知能力と非認知能力の伸び方の違い

認知能力は短期間の集中的な訓練で効率的に伸ばせるのに対し、非認知能力は長期的な経験の積み重ねによってゆっくりと育つという違いがあります。

認知能力と非認知能力は、どちらも人生を通じて発達し続ける可能性がありますが、その伸び方、最適な時期、効果的な方法には大きな違いがあります。この違いを理解することで、それぞれの能力を適切な時期に適切な方法で育てることができます。

認知能力は、比較的短期間で向上させることができます。例えば、漢字を覚えるのに数週間、九九を習得するのに数ヶ月といったように、集中的に練習すれば効率的に習得できます。夏休みの間に集中的に勉強して、苦手科目を克服することも可能です。学習塾や家庭教師による指導で、短期間に学力を伸ばすこともできます。

また、認知能力には発達の臨界期が比較的明確です。言語能力は幼少期が最も習得しやすく、年齢とともに新しい言語の習得は難しくなります。脳の可塑性が高い時期に適切な刺激を与えることで、認知能力は効率的に発達します。

一方、非認知能力の発達には時間がかかります。忍耐力、協調性、自己肯定感といった能力は、一朝一夕には身につきません。日々の生活の中での経験、人との関わり、様々な挑戦と失敗を通じて、何年もかけてゆっくりと形成されていきます。

非認知能力も乳幼児期が最も伸びやすい時期ですが、学童期、思春期、さらには成人期になっても発達し続けます。ヘックマン教授の研究が示すように、幼児期に非認知能力を育てることの効果は非常に高いですが、それ以降の年齢でも、適切な経験や働きかけによって非認知能力を伸ばすことは可能です。

伸ばし方のアプローチも異なります。認知能力は、体系的な教育プログラム、反復練習、段階的な学習によって効率的に伸ばせます。教科書、問題集、授業といった構造化された学習が有効です。「この方法で教えれば、この能力が伸びる」という因果関係が比較的明確です。

非認知能力は、構造化された教育プログラムだけでは十分に育ちません。むしろ、自由な遊び、人との関わり、実生活での経験、挑戦と失敗の繰り返しといった、より自然で多様な経験を通じて育まれます。「この方法でこの能力が伸びる」という単純な因果関係はなく、様々な要因が複雑に絡み合って育ちます。

また、認知能力は教師や専門家が主導して育てることができますが、非認知能力は本人の主体性がより重要です。やらされる学習でも認知能力はある程度伸びますが、非認知能力は本人が主体的に関わり、意味を見出す経験でなければ育ちません。

さらに、評価のタイミングも異なります。認知能力は短期間で効果が見えます。テストの点数がすぐに上がることで、学習の成果を実感できます。一方、非認知能力の発達は長期的に観察しなければ分かりません。今日の関わりが、何年後、何十年後に花開くこともあります。即座にフィードバックが得られないため、忍耐強く育て続ける必要があります。

このように、認知能力は短期集中型で効率的に伸ばせるのに対し、非認知能力は長期継続型でゆっくりと育つという伸び方の違いがあるのです。

それでは、これら2つの能力をバランスよく育てるには、どうすればよいのでしょうか。

認知能力と非認知能力を両方伸ばす育て方

認知能力と非認知能力を両方伸ばすには、学習の過程を大切にし、多様な経験を提供し、こどもの主体性を尊重しながら適切な支援を行うことが重要です。

どちらか一方だけを重視するのではなく、両方をバランスよく育てることが、こどもの全人的な成長につながります。幸いなことに、両者は相互に関連しているため、適切なアプローチをとれば、一つの活動で両方を育てることも可能です。家庭でできる具体的な方法を見ていきましょう。

学習への関わり方を工夫することで、認知能力と非認知能力を同時に育てられます。宿題や勉強をさせるとき、単に「やりなさい」と命令するのではなく、「今日はどの順番でやる?」と自分で計画を立てさせます。これは認知能力(学習内容の習得)と非認知能力(自己管理能力)の両方を育てます。

勉強の成果を評価するときも、点数だけでなくプロセスを認めます。「90点取れたね」だけでなく、「毎日コツコツ勉強してたもんね」「難しい問題に挑戦したね」とプロセスを認めることで、認知能力の成長を確認しながら、同時にやり抜く力という非認知能力も育てます。

読書は、認知能力と非認知能力を同時に育てる最良の活動の一つです。物語を読むことで語彙力や読解力(認知能力)が育つと同時に、登場人物の気持ちを理解することで共感性(非認知能力)が育ちます。長い本を最後まで読み通すことで、忍耐力も養われます。

遊びの中でも両方を育てることができます。ボードゲームやパズルは、ルールを理解し戦略を考える認知能力と、順番を待つ自制心や負けを受け入れるレジリエンスという非認知能力の両方を育てます。積み木やブロックは、空間認識能力(認知能力)と、試行錯誤する粘り強さ(非認知能力)を同時に育てます。

習い事も両方を育てる機会です。ピアノを習えば、楽譜を読む能力(認知能力)と、毎日練習する忍耐力(非認知能力)が育ちます。サッカーをすれば、戦術を理解する思考力(認知能力)と、チームで協力する協調性(非認知能力)が育ちます。

家庭での会話も重要です。「今日学校で何があった?」と聞くだけでなく、「それについてどう思った?」「なぜそうなったと思う?」と深く考えさせる質問をします。これは言語能力(認知能力)と、自己理解や論理的思考(非認知能力)を育てます。

お手伝いをさせることも効果的です。料理の手伝いでは、材料を測る算数的能力(認知能力)と、最後まで責任を持ってやり遂げる責任感(非認知能力)が育ちます。買い物の計画を立てさせることで、計算力(認知能力)と計画性(非認知能力)が育ちます。

失敗への対応も重要です。テストで悪い点を取ったとき、「次はもっと勉強しなさい」と結果だけを叱るのではなく、「どこが分からなかったの?」「次はどんな勉強方法を試してみる?」と一緒に考えます。これは学習内容の理解(認知能力)を深めながら、問題解決能力(非認知能力)も育てます。

また、年齢に応じて、重点の置き方を調整することも大切です。乳幼児期は非認知能力の土台作りに重点を置き、愛着形成や自由な遊びを大切にします。この時期に無理に認知能力を先取りする必要はありません。小学生になれば、学習習慣を身につけながら、自己管理能力も育てます。思春期には、自分で学習計画を立てて実行する経験を通じて、認知能力と自己調整能力の両方を高めます。

保護者の姿勢も重要です。学力だけを評価するのではなく、努力、協力、思いやり、挑戦といった非認知能力も同じように価値あるものとして認めます。「テストで100点取った」ことと「困っている友だちを助けた」ことを、同等に褒めることで、こどもは両方の能力がバランスよく育つことの大切さを学びます。

このように、認知能力と非認知能力は別々に育てるのではなく、日常生活の様々な場面で統合的に育てることができるのです。

非認知能力と認知能力は、その性質や育ち方において異なりますが、互いに影響し合う関係にあり、両方をバランスよく育てることが、こどもの真の成長につながるのです。

監修

代表理事
佐々木知香

略歴

2017年 本田右志理事長より右脳記憶教育講座を指南、「JUNKK認定マスター講師」取得
2018年 幼児教室アップルキッズをリビングサロンとして開講
2020年 佐々木進学教室Tokiwaみらい内へ移転、「佐々木進学教室幼児部」として再スタート
2025年 一般社団法人 日本右脳記憶教育協会(JUNKK)代表理事に就任
塾講師として中高生の学習指導に長年携わる中で、幼児期・小学校期の「学びの土台づくり」の重要性を痛感。
結婚を機に地方へ移住後、教育情報や環境の地域間格差を実感し、「地域に根差した実践の場をつくりたい」との想いから、幼児教室アップルキッズを開校。
発達障害や不登校の支援、放課後等デイサービスでの指導、子ども食堂での学習支援など、多様な子どもたちに寄り添う教育活動を展開中。