非認知能力はなぜ必要?学力との関係と将来への影響について!

非認知能力

近年、教育現場や子育ての場面で非認知能力という言葉をよく耳にするようになりましたが、なぜ必要なのか、具体的にどのような効果があるのか疑問に感じる方もいるでしょう。

実は、学力向上だけでなく、将来の年収や人生の成功にも深く関わっていることが、世界中の研究で明らかになっています。

学歴だけでは測れない人間の力が、社会で活躍するために不可欠であることが注目されているのです。

この記事では、非認知能力はなぜ必要とされるのか、その理由と具体的な効果について詳しく解説します。

非認知能力が必要とされる理由は?

非認知能力が必要とされる理由は、変化の激しい現代社会を生き抜く力となり、人間関係を円滑にし、困難を乗り越える原動力となるからです。

現代社会は、私たちの親世代が経験してきた時代とは大きく異なります。技術革新のスピードは加速し、AIやロボットが多くの仕事を担うようになりました。このような社会では、単に知識を暗記したり、決められた手順通りに作業をこなしたりする能力だけでは不十分です。予測できない問題に直面したとき、自ら考え、工夫し、粘り強く取り組む力が求められます。

第一の理由は、変化に対応する力が求められるからです。終身雇用や年功序列といった従来の雇用形態が崩れ、一つの会社で一生働き続けることが当たり前ではなくなりました。転職やキャリアチェンジが一般的になり、生涯を通じて学び続ける必要があります。このような環境では、新しいことに挑戦する好奇心や、失敗してもあきらめないやり抜く力、環境の変化に柔軟に対応できる自己調整能力といった非認知能力が欠かせません。

第二の理由は、人間関係を築く力が重要だからです。どれほど知識や技術があっても、他者と協力できなければ大きな成果は生み出せません。チームで働くこと、多様な価値観を持つ人々と協働することが当たり前の時代において、共感性や協調性、コミュニケーション能力といった非認知能力は、社会で活躍するための基盤となります。

第三の理由は、困難を乗り越える力が人生を左右するからです。人生には必ず困難や挫折が訪れます。受験の失敗、就職活動の苦労、仕事での挫折、人間関係のトラブルなど、様々な壁に直面します。そのとき、逃げずに立ち向かい、工夫しながら問題を解決していく力が必要です。自己肯定感、レジリエンス、問題解決能力といった非認知能力は、人生の困難を乗り越えるための心の支えとなります。

つまり、非認知能力は変化への対応力、良好な人間関係の構築力、そして困難を乗り越える力として、現代社会を生きるこどもたちに必要不可欠なのです。

では、非認知能力は学力を表す認知能力とはどのように違い、どう関係しているのでしょうか。

非認知能力と認知能力の違いと相互関係

非認知能力と認知能力は異なる特性を持ちながらも、互いに影響し合い、相乗効果を生む関係にあります。

こどもの教育を考えるとき、多くの保護者は学力に注目します。テストの点数、偏差値、どの学校に進学するかといった、目に見える成果を重視しがちです。これらは認知能力と呼ばれる力に関わっています。一方、非認知能力は数値化しにくく、評価が難しいため、見過ごされやすい側面があります。しかし、両者は決して対立するものではなく、密接に関わり合っています。

それぞれの能力の特徴

認知能力とは、知識や技能、思考力など、主に学力テストやIQテストで測定できる能力のことです。読み書き計算の力、記憶力、論理的思考力、問題を解く力などが含まれます。学校教育では主にこの認知能力を育てることに重点が置かれてきました。

一方、非認知能力とは、テストでは測れない心の力や社会的な力のことです。具体的には、自制心、忍耐力、やり抜く力、好奇心、協調性、共感性、自己肯定感、レジリエンス、創造性などが含まれます。これらは数値化が難しく、一朝一夕には身につきませんが、人生の様々な場面で発揮される重要な力です。

認知能力は比較的短期間で向上させることができ、適切な指導や訓練によって効率的に伸ばせます。例えば、計算問題を繰り返し解くことで計算力は向上します。一方、非認知能力は長期的な経験の積み重ねによって育まれ、日々の生活や人との関わりの中でゆっくりと形成されていきます。

両者が相乗効果を生む仕組み

非認知能力と認知能力は、互いに支え合い、高め合う関係にあります。まず、非認知能力が認知能力の発達を促進します。例えば、好奇心が強いこどもは、自ら学ぼうとする意欲が高く、知識を積極的に吸収します。自制心があれば、誘惑に負けずに勉強に集中でき、学習効率が上がります。やり抜く力があれば、難しい問題にも粘り強く取り組み、最終的に理解を深めることができます。

逆に、認知能力の向上が非認知能力を育てることもあります。勉強ができるようになると自信がつき、自己肯定感が高まります。学習を通じて問題解決の方法を学ぶことで、人生の他の場面でも応用できる思考力が身につきます。学校で良い成績を取ることで、努力が報われる経験をし、やり抜く力がさらに強化されます。

さらに、両者が統合されることで、真の学力が形成されます。知識だけあっても、それを活用する意欲や粘り強さがなければ、実社会では役に立ちません。逆に、やる気だけあっても、基礎的な知識や技能がなければ、思うような成果は出せません。認知能力と非認知能力の両方がバランスよく育つことで、こどもは真の意味で学び続ける力を獲得するのです。

このように、非認知能力と認知能力は車の両輪のような関係にあり、どちらか一方だけでは不十分で、両方がバランスよく育つことが重要なのです。

では、非認知能力は具体的に将来にどのような影響を与えるのでしょうか。

非認知能力が将来の年収や成功に与える影響

非認知能力は、将来の年収を高め、職業的成功をもたらし、人生全体の幸福度を向上させる力があります。

「こどもの教育に投資するなら、テストの点数を上げることが最優先」と考える保護者は少なくありません。しかし、数十年にわたる追跡調査によって、人生の成功を左右するのは学力だけではないことが明らかになっています。むしろ、非認知能力の高さが、長期的な人生の成果に大きく影響することが、世界中の研究で実証されています。

最も有名な研究の一つが、ノーベル経済学賞を受賞したジェームズ・ヘックマン教授によるペリー就学前プロジェクトです。この研究では、質の高い幼児教育を受けたこどもたちを40年以上追跡調査しました。その結果、幼児期に非認知能力を育てる教育を受けたグループは、成人後の年収が高く、持ち家率も高く、生活保護受給率が低いことが分かりました。特に注目すべきは、IQの差は小学校に入る頃には消えていたにもかかわらず、人生の成果には明確な差が出続けたことです。

この研究が示すのは、幼児期に育まれた忍耐力、自制心、やり抜く力といった非認知能力が、人生の様々な場面で発揮され、長期的な成功につながるということです。例えば、自制心が高い人は、目先の誘惑に負けず、長期的な目標に向かって努力を続けられます。協調性がある人は、職場で良好な人間関係を築き、チームで成果を出せます。やり抜く力がある人は、困難なプロジェクトでも最後まで責任を持って取り組めます。

また、マシュマロテストとして知られる研究も示唆に富んでいます。4歳児に「今すぐマシュマロを1個食べてもいいけど、15分我慢したら2個あげる」という選択を与え、我慢できた時間を測定しました。追跡調査の結果、幼児期に長く我慢できたこどもは、青年期になってからのSATスコア(大学進学適性試験)が高く、成人後の肥満率や薬物依存率が低いことが分かりました。この自制心が、人生の様々な場面でプラスに働いたのです。

さらに、社会で活躍している人々の共通点を調べた研究では、必ずしも学歴が最高峰というわけではなく、困難に直面してもあきらめない粘り強さ、失敗から学ぶ柔軟性、他者と協力する力といった非認知能力を持っていることが明らかになっています。起業家、アーティスト、研究者、管理職など、様々な分野で成功している人々に共通するのは、高いIQではなく、情熱を持って粘り強く取り組む姿勢なのです。

このように、非認知能力は年収の向上や職業的成功だけでなく、健康や幸福感といった人生全体の質を高める力を持っているのです。

非認知能力が将来に影響を与えることが分かりましたが、では学力そのものとはどう関係しているのでしょうか。

非認知能力が学力向上につながる理由

非認知能力は、学習への意欲を高め、集中力を持続させ、困難な課題にも粘り強く取り組む力を育てることで、学力向上の基盤となります。

多くの保護者は、学力を上げるためには勉強時間を増やしたり、良い塾に通わせたりすることが重要だと考えます。もちろん、これらも一定の効果はあります。しかし、いくら勉強の機会を与えても、本人にやる気がなければ身につきません。逆に、学ぶ意欲があり、集中して取り組み、難しい問題にも諦めずに挑戦する姿勢があれば、学力は自然と向上していきます。この学びの姿勢を支えているのが、まさに非認知能力なのです。

まず、好奇心や学習意欲といった非認知能力が、学びのスタート地点となります。「なぜだろう?」「もっと知りたい」という気持ちがあるこどもは、自ら本を読んだり、質問をしたり、調べたりします。この主体的な学びが、知識の定着と理解の深化をもたらします。外から強制されて学ぶのと、自ら知りたくて学ぶのとでは、学習効果に大きな差があります。

次に、自制心が学習の継続を可能にします。勉強は楽しいことばかりではありません。ゲームをしたい、友だちと遊びたいという誘惑がある中で、宿題や予習復習に取り組むには、自分をコントロールする力が必要です。自制心が高いこどもは、誘惑に負けずに勉強時間を確保でき、結果として学力が向上します。

さらに、やり抜く力が学力の伸びを左右します。勉強していると、必ず「分からない」「難しい」という壁にぶつかります。そのとき、すぐに諦めてしまうのか、それとも粘り強く取り組み続けるのかで、学力の到達点は大きく変わります。やり抜く力があるこどもは、難問に何時間も取り組んだり、分からない部分を徹底的に調べたりすることで、深い理解に到達します。

また、自己調整能力も学力向上に寄与します。効果的に学ぶためには、自分の理解度を把握し、弱点を見つけ、適切な学習計画を立てる必要があります。「この分野は理解できているけど、あの分野は苦手だから重点的に勉強しよう」といったメタ認知的な学習ができるこどもは、効率的に学力を伸ばせます。この能力も非認知能力の一つです。

研究でも、非認知能力と学力の正の相関が確認されています。自制心が高いこどもは成績が良い傾向にあり、やり抜く力があるこどもは難関校に合格する確率が高いことが分かっています。また、ある研究では、IQが同程度のこどもでも、やり抜く力の高さによって成績に大きな差が出ることが示されました。

このように、非認知能力は学習の動機づけ、持続力、問題解決への粘り強さを生み出し、結果として学力を向上させる土台となるのです。

では、こうした重要な非認知能力は、いつまで育てることができるのでしょうか。

非認知能力はいつまで伸ばせるの?

非認知能力は、乳幼児期が最も伸びやすい時期ですが、適切な働きかけによって生涯を通じて発達させることが可能です。

「もう小学生だから手遅れかもしれない」「幼児期に何もしてこなかったから今さら無理」と諦める必要はありません。確かに、脳の発達や経験の吸収という観点から、乳幼児期は非認知能力を育てる最適期であることは間違いありません。しかし、人間の脳は生涯にわたって変化し続ける可塑性を持っており、適切な経験や訓練によって、何歳になっても非認知能力を伸ばすことができます。

乳幼児期(0〜6歳)は、非認知能力の土台が形成される最も重要な時期です。この時期は脳の発達が著しく、特に情動や社会性を司る脳の領域が急速に発達します。安定した愛着関係の中で、基本的信頼感や自己肯定感が育まれ、これが生涯の非認知能力の基盤となります。ヘックマン教授の研究が示すように、この時期への投資効果は非常に高く、後の人生に長く影響を及ぼします。

学童期(7〜12歳)も、非認知能力を大きく伸ばせる時期です。学校生活や友人関係、習い事などを通じて、協調性、責任感、自己管理能力が発達します。この時期は、自分で目標を立てて取り組む経験、失敗から学ぶ経験、チームで協力する経験が重要です。乳幼児期ほどではありませんが、まだ脳の柔軟性が高く、新しい習慣や考え方を身につけやすい時期です。

思春期(13〜18歳)は難しい時期ですが、非認知能力の発達にとって重要な時期でもあります。アイデンティティの確立、自己理解の深化、将来への展望といった課題に取り組む中で、自己決定力や目標設定能力が育ちます。この時期は、大人からの一方的な指導よりも、自分で考え、選択し、責任を取る経験が非認知能力を育てます。

成人期以降も、非認知能力を伸ばすことは可能です。新しい仕事への挑戦、困難なプロジェクトの遂行、人間関係の構築といった経験を通じて、大人になってからも忍耐力や協調性、問題解決能力を高めることができます。脳科学の研究でも、適切なトレーニングや新しい経験によって、成人の脳も変化することが確認されています。

ただし、年齢が上がるほど、非認知能力を変化させるには時間と意識的な努力が必要になります。幼児期なら遊びの中で自然に身につくことも、大人になると意識的に訓練する必要があります。だからこそ、できるだけ早い時期から非認知能力を育てる環境を整えることが推奨されるのです。

つまり、非認知能力を育てるのに「遅すぎる」ということはなく、今この瞬間から始めることで、こどもの将来は必ず変わっていくのです。

非認知能力はなぜ必要なのか、それは変化の激しい現代社会を生き抜く力であり、人間関係を築く力であり、困難を乗り越える力だからです。そして、学力の向上にも寄与し、将来の年収や人生の成功にも深く関わっています。

認知能力だけでなく非認知能力も育てることで、こどもは真の意味で社会で活躍できる人間へと成長していきます。非認知能力は乳幼児期が最も育ちやすい時期ですが、何歳からでも伸ばすことができます。日々の関わりの中で、こどもの努力やプロセスを認め、挑戦を応援し、失敗から学ぶ経験を重ねることで、非認知能力は確実に育っていくのです。

監修

代表理事
佐々木知香

略歴

2017年 本田右志理事長より右脳記憶教育講座を指南、「JUNKK認定マスター講師」取得
2018年 幼児教室アップルキッズをリビングサロンとして開講
2020年 佐々木進学教室Tokiwaみらい内へ移転、「佐々木進学教室幼児部」として再スタート
2025年 一般社団法人 日本右脳記憶教育協会(JUNKK)代表理事に就任
塾講師として中高生の学習指導に長年携わる中で、幼児期・小学校期の「学びの土台づくり」の重要性を痛感。
結婚を機に地方へ移住後、教育情報や環境の地域間格差を実感し、「地域に根差した実践の場をつくりたい」との想いから、幼児教室アップルキッズを開校。
発達障害や不登校の支援、放課後等デイサービスでの指導、子ども食堂での学習支援など、多様な子どもたちに寄り添う教育活動を展開中。