非認知能力と自制心の関係とは?こどもの我慢する心を育てる方法!

非認知能力

非認知能力の中でも、自制心は特に重要な能力として注目されています。

目の前の誘惑に負けず、長期的な目標のために我慢できる力は、学業や人生の成功に大きく関わります。

マシュマロテストで有名になったこの能力は、幼児期から育て始めることができます。

しかし、厳しく叱って我慢させるだけでは、本当の非認知能力は育ちません。

この記事では、自制心との関係と、こどもの我慢する力を効果的に育てる5つの方法を詳しく解説します。

自制心とは?非認知能力における位置づけ

自制心とは、目の前の誘惑や衝動を抑え、長期的な目標や社会的に適切な行動を選択できる力であり、非認知能力の中核をなす重要な能力です。

自制心という言葉を聞くと、「我慢する力」をイメージする人が多いでしょう。確かに我慢する力は自制心の一部ですが、それだけではありません。自制心は、より広い概念であり、非認知能力の中でも特に重要な位置を占めています。

自制心には、いくつかの要素が含まれます。第一に、衝動のコントロールです。「今すぐやりたい」「今すぐ欲しい」という衝動を抑え、より良い選択をする力です。ゲームをしたいけど宿題を先にする、お菓子を食べたいけど夕飯まで待つといった日常の場面で発揮されます。

第二に、注意のコントロールです。気が散るものがあっても、一つのことに集中し続ける力です。周りがうるさくても勉強に集中する、テレビがついていても話を聞くといった場面で必要です。

第三に、感情のコントロールです。怒り、悲しみ、恐れといった感情に圧倒されず、適切に対処する力です。悔しくても泣かない、怖くても挑戦するといった場面で発揮されます。

第四に、思考のコントロールです。ネガティブな思考や不安を制御し、建設的に考える力です。「どうせ無理」と思いそうになっても、「やってみよう」と考え直す力です。

非認知能力における自制心の位置づけは、非常に重要です。自制心は、やり抜く力、計画性、責任感といった他の非認知能力の基盤となります。自制心がなければ、長期的な目標に向けて努力を続けることも、計画的に行動することも、責任を果たすこともできません。

また、自制心は社会生活の基盤でもあります。ルールを守る、順番を待つ、他者を傷つけないといった社会的行動には、すべて自制心が必要です。自制心がなければ、協調性を発揮することも、良好な人間関係を築くこともできません。

このように、自制心は衝動、注意、感情、思考をコントロールする力であり、他の非認知能力の土台となる中核的な能力なのです。

では、自制心は将来にどのような影響を与えるのでしょうか。

自制心が将来に与える影響

自制心が将来に与える影響は、学業成績の向上、年収の増加、健康状態の改善、良好な人間関係、犯罪率の低下など、人生のあらゆる側面に及びます。

自制心が重要だと言われても、具体的にどんな影響があるのか分からなければ実感が湧きません。自制心の将来への影響については、多くの研究が行われており、その効果は科学的に証明されています。

最も有名な研究は、1960年代にスタンフォード大学のウォルター・ミシェル博士が行ったマシュマロテストです。4歳の子どもに、「今すぐマシュマロを1個食べてもいいけど、15分我慢したら2個あげる」という選択を与えました。この実験で、長く待てた子どもと、すぐに食べてしまった子どもを追跡調査したところ、驚くべき結果が出ました。

15分我慢できた子どもは、そうでない子どもと比べて、高校時代のSATスコア(アメリカの大学進学適性試験)が平均で210点も高かったのです。また、大人になってからも、肥満率が低く、薬物依存が少なく、社会的に成功している人が多いことが分かりました。

ニュージーランドで行われた大規模な縦断研究(ダニーデン研究)でも、同様の結果が出ています。1000人以上の子どもを生まれてから40年近く追跡した結果、3歳から11歳の間に測定された自制心の高さは、32歳時点での健康状態、経済状況、犯罪歴を予測することが分かりました。

具体的には、子ども時代に自制心が高かった人は、大人になってからの身体的健康が良好で、薬物やアルコールへの依存が少なく、経済的に安定しており、犯罪を犯す率が低いという結果でした。この関係は、知能や社会経済的背景を統計的にコントロールしても維持されました。つまり、自制心の影響は、頭の良さや家庭環境とは独立して存在するのです。

学業への影響も大きいです。自制心が高い子どもは、宿題を先延ばしにせず、誘惑に負けずに勉強でき、テスト勉強を計画的に進められます。その結果、学業成績が向上します。研究では、自制心はIQよりも学業成績を予測する力が強いことも示されています。

人間関係への影響もあります。自制心が高い人は、怒りをコントロールでき、衝動的な発言を抑えられるため、対人関係でトラブルを起こしにくくなります。また、約束を守る、責任を果たすといった行動ができるため、信頼される人間関係を築けます。

メンタルヘルスへの影響も見逃せません。自制心が高い人は、ストレスに対処する能力が高く、ネガティブな思考をコントロールできるため、うつ病や不安障害のリスクが低いとされています。

このように、自制心は学業、健康、経済、人間関係、メンタルヘルスなど、人生のあらゆる側面に長期的な影響を与える重要な能力なのです。

では、この重要な自制心はどのように発達していくのでしょうか。

自制心が発達する時期と過程

自制心は、乳児期から芽生え始め、幼児期に急速に発達し、学童期を通じて強化され、前頭前野が完成する20代半ばまで発達し続けます。

自制心は生まれたときから備わっているわけではなく、脳の発達とともに少しずつ育っていきます。発達の過程を理解することで、年齢に応じた適切な関わり方ができるようになります。

乳児期(0〜1歳)は、自制心の芽生えの時期です。生まれたばかりの赤ちゃんには自制心はありません。お腹がすけば泣き、眠くなれば泣き、不快なら泣きます。しかし、生後数ヶ月から、指しゃぶりをして自分を落ち着かせる、お気に入りのぬいぐるみを抱いて安心するといった、自己調整の芽生えが見られます。1歳頃には、「ダメ」と言われたことを一瞬我慢できるようになります。

幼児期(2〜6歳)は、自制心が急速に発達する時期です。2歳頃はまだ衝動的ですが、3歳頃から少しずつ待てるようになります。マシュマロテストで我慢できる時間は、3歳ではほぼゼロですが、4歳で平均3〜4分、5歳で5〜6分と伸びていきます。この時期に、ルールを守る、順番を待つ、感情をコントロールするといった経験を積むことが、自制心の発達を促します。

学童期(7〜12歳)は、自制心がさらに強化される時期です。学校生活を通じて、授業中じっとしている、宿題を計画的に進める、友だちとトラブルを起こさないといった自制心が求められます。この要求に応える中で、自制心は鍛えられていきます。また、この時期には、将来の目標のために今我慢するという、長期的な視点での自制心も発達します。

思春期(13〜18歳)は、自制心が試される時期です。脳の報酬系(快楽を感じる部分)が活発になる一方、自制心を司る前頭前野はまだ発達途上です。このアンバランスにより、衝動的な行動、リスクの高い行動をとりやすくなります。しかし、この時期を通じて前頭前野は発達し続け、徐々に自制心が強化されていきます。

自制心の発達は、前頭前野という脳の領域の発達と密接に関連しています。前頭前野は、計画、判断、衝動の抑制を担う部位で、生涯を通じて最も遅く成熟する脳領域です。完全に成熟するのは20代半ばとされています。つまり、自制心の発達には20年以上かかるのです。

このことは、こどもに過度な自制心を期待すべきではないことを示しています。脳がまだ発達途上である以上、大人と同じレベルの自制心を求めることは不可能です。年齢に応じた適切な期待を持ち、少しずつ自制心を育てていくことが大切です。

このように、自制心は乳児期に芽生え、幼児期に急速に発達し、学童期に強化され、前頭前野が成熟する20代半ばまで発達し続けるのです。

発達の過程を理解した上で、具体的にどう自制心を育てればよいのか見ていきましょう。

こどもの自制心を育てる5つの方法

こどもの自制心を育てる5つの方法は、待つ練習を日常に取り入れる、明確なルールを一緒に決める、感情を言葉にする習慣をつける、計画を立てて行動する経験を積ませる、自制心を発揮したときに認めることです。

自制心は、適切な経験と働きかけによって育てることができます。厳しく叱ったり、無理やり我慢させたりするのではなく、日常生活の中で少しずつ練習することが効果的です。5つの具体的な方法を見ていきましょう。

第一の方法は、待つ練習を日常に取り入れることです。「ちょっと待ってね」という場面を意図的に作り、待てたら褒めます。最初は数秒から始め、徐々に時間を延ばしていきます。「おやつは3時までお預けね」「お出かけはお父さんが帰ってきてからね」といった形で、待つ経験を積ませます。待つ時間を楽しく過ごせるよう、「その間にこれをやろう」と提案することも効果的です。

第二の方法は、明確なルールを一緒に決めることです。「ゲームは1日30分まで」「テレビは宿題が終わってから」といったルールを、こどもと話し合って決めます。なぜそのルールが必要なのか説明し、こども自身が納得することが大切です。自分で決めたルールは、守る動機が高まります。ルールを守れたときは認め、守れなかったときは一緒に原因を考えます。

第三の方法は、感情を言葉にする習慣をつけることです。自制心の前提として、自分の感情に気づく力が必要です。「今、どんな気持ち?」と聞く、「悔しかったね」「イライラしてるね」と感情を言葉にして返すといった関わりが、感情の認識を促します。感情を言葉にできると、感情に圧倒されにくくなり、コントロールしやすくなります。

第四の方法は、計画を立てて行動する経験を積ませることです。「夏休みの宿題をいつやる?」「週末は何をしたい?」と問いかけ、こども自身に計画を立てさせます。計画を立て、それに沿って行動し、振り返るという経験が、自己管理能力を育てます。最初は保護者が一緒に計画を立て、徐々に自分でできるようにします。

第五の方法は、自制心を発揮したときに認めることです。こどもが誘惑に負けずに我慢できたとき、「よく我慢できたね」「待てたね、偉いね」と具体的に認めます。我慢した結果、良いことがあったことを伝えるのも効果的です。「待ったから、一緒にできたね」「我慢したから、もっとおいしく食べられたね」といった形で、自制心のメリットを実感させます。

また、日常生活の中でゲーム感覚で自制心を鍛える方法もあります。「だるまさんが転んだ」「椅子取りゲーム」「ストップ&ゴー」などの遊びは、衝動を抑える練習になります。音楽が止まったら動きを止める、合図があるまで動かないといったルールのある遊びが効果的です。

さらに、保護者自身が自制心を見せることも重要です。イライラしたときに深呼吸して落ち着く姿、欲しいものがあっても「今は我慢しよう」と言う姿を見せることで、こどもは自制心の手本を学びます。

このように、待つ練習、ルールづくり、感情の言語化、計画行動、認めることという5つの方法を日常に取り入れることで、こどもの自制心を効果的に育てることができるのです。

自制心を育てる際には、いくつか注意すべき点があります。

自制心を育てる際の注意点

自制心を育てる際の注意点は、年齢に応じた期待を持つこと、厳しすぎる関わりを避けること、我慢させすぎないこと、自制心を発揮しやすい環境を整えること、個人差を認めることです。

自制心を育てたいあまり、間違った関わり方をしてしまうと、逆効果になることがあります。いくつかの注意点を理解しておきましょう。

第一に、年齢に応じた期待を持つことです。前述のように、自制心を司る前頭前野は20代半ばまで発達し続けます。幼児に大人と同じ自制心を求めることは、脳の発達上不可能です。2〜3歳のこどもが衝動的なのは当然であり、それを叱っても効果はありません。「この年齢ならこのくらいできれば十分」という適切な期待を持ち、少しずつ伸ばしていく姿勢が大切です。

第二に、厳しすぎる関わりを避けることです。「我慢しなさい!」と厳しく叱る、罰を与えて無理やり我慢させるといった関わりは、自制心を育てません。むしろ、ストレスが高まり、反発心が生まれ、自己肯定感が下がります。自制心は、安心できる環境の中で、少しずつ練習することで育ちます。厳しさよりも、温かさと一貫性が大切です。

第三に、我慢させすぎないことです。常に我慢を強いられる環境では、こどもは疲弊します。研究では、自制心は筋肉のように消耗することが分かっています。我慢し続けると、自制心を発揮する力が一時的に低下します。我慢する場面と、自由にできる場面のバランスが大切です。全てを我慢させるのではなく、重要なことに絞って自制心を求めます。

第四に、自制心を発揮しやすい環境を整えることです。誘惑を減らすことで、自制心を発揮しやすくなります。ゲームやお菓子が目の前にあると、我慢するのは大人でも難しいものです。宿題中はゲーム機を別の部屋に置く、お菓子は見えない場所に収納するといった環境調整が、こどもの自制心をサポートします。

第五に、個人差を認めることです。気質的に衝動性が高い子もいれば、落ち着いている子もいます。これは生まれつきの傾向であり、努力だけでは完全に変えられません。衝動性が高い子は、より多くの練習と、より強いサポートが必要です。他の子と比較せず、その子なりの成長を認めることが大切です。

第六に、自制心の発揮を強制しないことです。「我慢しなさい」と命令するのではなく、なぜ我慢が必要か説明し、こども自身が選択できるようにします。「今食べてもいいけど、後でなくなるよ。どうする?」と選択肢を与えることで、こどもは自分で考え、自制心を発揮する経験ができます。

第七に、自制心が低いことを人格否定しないことです。「我慢できないあなたはダメな子」といったメッセージは、自己肯定感を傷つけます。「今日は我慢できなかったね。次はどうしたらいいかな?」と、行動に焦点を当て、人格を否定しない関わりが大切です。

このように、自制心を育てる際には年齢に応じた期待、厳しすぎない関わり、我慢のバランス、環境調整、個人差の認識といった点に注意することが重要なのです。

自制心は非認知能力の中核をなす重要な能力であり、学業、健康、人間関係など人生のあらゆる面に長期的な影響を与え、乳児期から芽生えて20代半ばまで発達し続けるため、年齢に応じた適切な期待を持ちながら、待つ練習、ルールづくり、感情の言語化、計画行動、認めることという5つの方法を通じて、温かく一貫した関わりの中で育てることが大切なのです。

監修

代表理事
佐々木知香

略歴

2017年 本田右志理事長より右脳記憶教育講座を指南、「JUNKK認定マスター講師」取得
2018年 幼児教室アップルキッズをリビングサロンとして開講
2020年 佐々木進学教室Tokiwaみらい内へ移転、「佐々木進学教室幼児部」として再スタート
2025年 一般社団法人 日本右脳記憶教育協会(JUNKK)代表理事に就任
塾講師として中高生の学習指導に長年携わる中で、幼児期・小学校期の「学びの土台づくり」の重要性を痛感。
結婚を機に地方へ移住後、教育情報や環境の地域間格差を実感し、「地域に根差した実践の場をつくりたい」との想いから、幼児教室アップルキッズを開校。
発達障害や不登校の支援、放課後等デイサービスでの指導、子ども食堂での学習支援など、多様な子どもたちに寄り添う教育活動を展開中。