乳児期の非認知能力をどう育てればよいのか、0歳から2歳のこどもを持つ保護者にとって重要なテーマです。
この時期はまだ言葉も話せず、何を考えているのか分かりにくいため、どう関わればよいのか迷うこともあるでしょう。
しかし、この時期こそがこのような能力の土台を築く最も重要な時期であり、この時期の関わり方が生涯にわたって影響を与えます。
愛着形成、感情の受容、自由な探索、応答的な関わりといった基本的な関わり方が、こどもの能力を育てます。
この記事では、0〜2歳の乳児期における非認知能力の育て方を、月齢別のポイントと共に詳しく解説します。
乳児期に育つ非認知能力とは?
乳児期に育つ非認知能力は、基本的信頼感、愛着、感情の調整、好奇心、自己効力感の芽生えであり、これらがすべての非認知能力の土台となります。
0歳から2歳までの乳児期は、人生で最も脳が発達する時期です。生まれたときの脳は未熟で、わずか2年間で成人の約80%の大きさに成長します。特に、情動や社会性を司る脳の領域が急速に発達するのがこの時期です。この時期に育つ非認知能力は、後の人生におけるすべての非認知能力の基盤となります。
乳児期に最も重要なのは、基本的信頼感です。エリク・エリクソンという心理学者が提唱した概念で、「世界は信頼できる場所である」「困ったときには助けてもらえる」という感覚のことです。この感覚は、養育者との関わりを通じて育まれます。赤ちゃんが泣いたときにすぐに駆けつけてもらえる、お腹がすいたときに授乳してもらえる、不快なときに快適にしてもらえるといった経験の積み重ねが、基本的信頼感を育てます。
愛着も、この時期に形成される重要な非認知能力の土台です。愛着とは、特定の養育者との間に築かれる情緒的な絆のことです。生後6ヶ月頃から、赤ちゃんは特定の人(主に母親や主たる養育者)に強い愛着を示すようになります。この愛着が安定していると、後の自己肯定感、対人関係能力、ストレス対処能力が育ちやすくなります。
感情の調整も、乳児期から始まります。最初は泣くことしかできなかった赤ちゃんが、徐々に自分の感情を調整する方法を学びます。指しゃぶりをして自分を落ち着かせる、お気に入りのぬいぐるみを抱いて安心するといった行動が、感情調整の芽生えです。この初期の感情調整が、後の自制心や感情コントロール能力の基礎となります。
好奇心も、乳児期から育ち始めます。生後数ヶ月から、赤ちゃんは周囲の世界に興味を示し、見る、聞く、触るといった感覚を通じて探索を始めます。何でも口に入れてみる、音がする方を向く、動くものを目で追うといった行動は、好奇心の表れです。この好奇心が、後の学習意欲の源となります。
自己効力感の芽生えも見られます。「自分の行動が環境に影響を与える」という感覚が、乳児期から育ちます。例えば、泣いたら抱っこしてもらえる、おもちゃを振ると音が出る、手を伸ばせば物を掴めるといった経験が、「自分にはできる」という感覚を育てます。この感覚が、後の自己効力感や主体性の基盤となります。
また、社会性の芽生えも見られます。生後数ヶ月から、赤ちゃんは人の顔を好んで見るようになり、笑顔には笑顔で返すようになります。1歳前後からは、大人が見ているものを一緒に見ようとする共同注意という行動が現れます。これらは、後の社会性やコミュニケーション能力の基礎となります。
このように、乳児期には基本的信頼感、愛着、感情調整、好奇心、自己効力感といった、すべての非認知能力の土台が形成されるのです。
では、これらの土台を築くために最も重要な愛着形成について見ていきましょう。
愛着形成が非認知能力の土台になる理由
愛着形成は、こどもの発するサインに敏感に応答することで築かれ、安心感という心の安全基地を提供し、すべての非認知能力の発達を支える基盤となります。
乳児期の非認知能力育成において、最も重要なのが愛着形成です。愛着とは、こどもが特定の養育者との間に築く情緒的な絆のことで、この絆の質が、生涯にわたる非認知能力の発達に影響を与えます。なぜ愛着形成がこれほど重要なのか、そしてどう形成すればよいのか、理解しておきましょう。
愛着が非認知能力の土台となる理由は、安全基地を提供するからです。安全基地とは、こどもが不安を感じたときに戻れる心の拠り所のことです。安定した愛着があるこどもは、養育者を安全基地として、安心して周囲の世界を探索できます。新しいものに興味を持ち、触れてみて、うまくいかなかったり怖くなったりしたら、養育者のもとに戻って安心を得る。そしてまた探索に出かける。この繰り返しが、好奇心、自己効力感、レジリエンスを育てます。
安定した愛着があると、ストレスに強くなります。研究では、安定した愛着を持つこどもは、ストレスホルモンの分泌が適切に調整され、ストレスに対処する能力が高いことが示されています。逆に、不安定な愛着や愛着障害があると、些細なストレスにも過剰に反応したり、感情のコントロールが困難になったりします。
また、愛着は自己肯定感の源となります。「自分は愛されている」「自分には価値がある」という感覚は、安定した愛着から生まれます。この自己肯定感が、後の挑戦意欲、やり抜く力、対人関係能力を支えます。
では、どのように愛着を形成すればよいのでしょうか。最も重要なのは、応答的な関わりです。こどもが泣いたときにすぐに駆けつける、笑顔を見せたら笑顔で返す、話しかけられたら優しく応答するといった、こどもの発するサインに敏感に気づき、適切に応えることが愛着形成につながります。
「泣いてもすぐに抱っこすると、抱き癖がつく」という考えは誤りです。乳児期は、十分に甘えさせることが重要です。泣いてもすぐに応えてもらえる経験が、基本的信頼感を育てます。十分に甘えられた子は、むしろ自立が早いという研究結果もあります。
スキンシップも愛着形成には欠かせません。抱っこする、授乳する、頬を寄せる、優しく撫でるといった身体的な触れ合いは、オキシトシンという愛着ホルモンの分泌を促し、親子の絆を深めます。ベビーマッサージも、愛着形成に効果的です。
一貫性のある関わりも重要です。いつも同じ人が、いつも同じように応えてくれることで、こどもは安心します。養育者が頻繁に変わったり、対応が日によって大きく違ったりすると、こどもは不安を感じ、愛着が不安定になります。
また、アイコンタクトや語りかけも愛着を深めます。授乳中やおむつ替えのときに、赤ちゃんの目を見て優しく話しかけます。まだ言葉を理解できなくても、声のトーンや表情から、愛情を感じ取ります。
保護者自身の情緒の安定も重要です。保護者が不安やストレスを抱えていると、こどもへの応答が不安定になり、愛着形成に影響します。保護者自身が心身の健康を保つこと、必要に応じてサポートを求めることも、愛着形成には大切です。
このように、愛着形成は応答的な関わり、スキンシップ、一貫性のある対応によって築かれ、こどもに安心感という心の安全基地を提供し、すべての非認知能力の土台となるのです。
愛着と並んで重要なのが、感情の調整能力です。
乳児期の感情調整能力の育て方
乳児期の感情調整能力は、養育者がこどもの感情を受け止めて名前をつけ、落ち着かせる方法を示すことで育ち、徐々に自分で感情をコントロールする力へと発達します。
乳児期のこどもは、喜び、怒り、悲しみ、恐れといった基本的な感情を持っていますが、それをコントロールする力はまだ未熟です。最初は泣くことでしか表現できませんが、養育者との関わりを通じて、徐々に感情を調整する方法を学んでいきます。この初期の感情調整能力が、後の自制心や感情コントロール能力の基礎となります。
感情調整能力を育てる第一の方法は、こどもの感情を受け止めることです。赤ちゃんが泣いているとき、「お腹がすいたね」「眠いね」「びっくりしたね」と、感情や状態を言葉にして伝えます。まだ言葉を理解できなくても、この関わりが重要です。感情を受け止めてもらえる経験が、後に自分の感情を理解し、言葉で表現する力につながります。
感情を落ち着かせる方法を示すことも重要です。赤ちゃんが泣いているとき、抱っこして優しく揺らす、背中をトントンする、落ち着いた声で話しかけるといった方法で、落ち着きを取り戻す手助けをします。この経験を通じて、赤ちゃんは「不快な感情は落ち着けることができる」と学びます。
規則正しい生活リズムも、感情の安定に寄与します。毎日だいたい同じ時間に授乳し、遊び、寝るというリズムが、赤ちゃんに安心感を与えます。予測可能な環境は、感情の安定を支えます。
徐々に、赤ちゃんは自分で感情を調整する方法を学び始めます。指しゃぶりをする、お気に入りのぬいぐるみやタオルを抱く、自分の手を見つめるといった行動は、自己調整の芽生えです。この自己調整を邪魔せず、見守ることが大切です。
1歳を過ぎると、感情の表現が豊かになります。嬉しいときに笑う、怒ったときに足をバタバタさせる、悲しいときに泣くといった表現が明確になります。この感情表現を受け止め、「嬉しいね」「怒ってるね」と言葉にすることで、感情の理解が深まります。
2歳に近づくと、イヤイヤ期が始まります。これは自我の芽生えであり、成長の証です。「イヤ!」と言えることは、自己主張の始まりです。この時期は、感情が激しくなり、コントロールが難しくなりますが、これも感情調整能力を育てる重要なプロセスです。保護者は、感情を受け止めつつ、適切な境界線を示すことが大切です。
また、ポジティブな感情を共有することも重要です。赤ちゃんが笑ったら一緒に笑う、喜んでいたら「嬉しいね!」と共感するといった関わりが、ポジティブな感情の調整を育てます。
保護者自身が感情をコントロールする姿を見せることも、学びの機会となります。保護者がイライラしたときに、深呼吸をして落ち着く姿を見せることで、感情のコントロール方法を学びます。
このように、乳児期の感情調整能力は、養育者が感情を受け止めて言葉にし、落ち着かせる方法を示し、自己調整の芽生えを見守ることで育つのです。
感情調整と並んで、乳児期に重要なのが探索行動を通じた好奇心の育成です。
探索行動を通じた好奇心の育て方
探索行動を通じた好奇心は、安全な環境の中で自由に動き回り、触れ、試すことを許すことで育ち、この経験が学習意欲と問題解決能力の基盤となります。
乳児期のこどもは、生まれながらにして好奇心を持っています。周囲の世界に興味を示し、見る、聞く、触る、味わうといった感覚を使って探索します。この探索行動は、脳の発達を促し、好奇心、学習意欲、問題解決能力の基礎を育てます。保護者の役割は、安全な環境を提供し、探索を見守ることです。
まず重要なのは、安全な環境づくりです。危険なもの(鋭利なもの、小さくて飲み込めるもの、有害な物質など)は手の届かないところに置き、ある程度自由に動き回れる空間を確保します。コンセントにカバーをする、角にクッションをつける、階段にゲートをつけるといった基本的な安全対策をした上で、できるだけ自由に探索させます。
「ダメ!」と言う回数を最小限にすることが大切です。何でも「触らないで」「ダメ」と言われると、好奇心が育ちません。安全な環境を作った上で、「これは触ってもいいよ」「ここで遊んでいいよ」と許可する方が、好奇心を育てます。
自由な探索を許すことも重要です。赤ちゃんが何かに興味を示したら、できるだけ触らせます。おもちゃだけでなく、安全であれば、日常の物(木のスプーン、プラスチックの容器、布など)も探索の対象となります。様々な質感、形、重さのものに触れることが、感覚の発達と好奇心を育てます。
何でも口に入れる時期は、保護者にとって大変ですが、これも重要な探索です。口は、赤ちゃんにとって最も敏感な感覚器官です。口に入れることで、物の質感、味、大きさを確かめています。危険でなければ、この探索を許します。
動き始めたら、できるだけ動ける環境を提供します。ハイハイ、つかまり立ち、つたい歩きといった動きは、身体能力だけでなく、空間認識能力、問題解決能力を育てます。「あそこに行きたい」「あれを取りたい」という目標に向かって動く経験が、やり抜く力の芽生えです。
おもちゃは、シンプルなものが効果的です。高価な電子玩具よりも、積み木、ブロック、ボールといったシンプルなおもちゃの方が、想像力と問題解決能力を育てます。また、おもちゃは多すぎない方が良いとされています。厳選したおもちゃを与え、じっくり遊ぶ時間を持つことが大切です。
一緒に遊ぶ時間も重要です。保護者が一緒に遊ぶことで、遊びが豊かになります。ボールを転がし合う、積み木を一緒に積む、絵本を一緒に見るといった活動が、社会性と好奇心を育てます。
外の世界への探索も大切です。天気の良い日は、公園や自然の中に連れて行きます。外の音、風、葉っぱ、虫といった自然の刺激は、好奇心を大いに刺激します。抱っこやベビーカーでの散歩も、視覚や聴覚への刺激となります。
ただし、過度な刺激は避けます。一度に多くの場所に連れて行ったり、たくさんのおもちゃを与えたりすると、かえって集中できなくなります。適度な刺激を、ゆっくりと与えることが大切です。
このように、探索行動を通じた好奇心は、安全な環境の中で自由に動き回り触れて試すことを許し、一緒に遊び外の世界にも連れ出すことで育つのです。
これまで見てきた関わり方を、月齢別にまとめてみましょう。
月齢別の非認知能力の育て方のポイント
月齢別の非認知能力の育て方は、0〜6ヶ月は応答的な関わりと愛着形成、7〜12ヶ月は探索の見守りと共同注意、13〜24ヶ月は自律性の尊重とイヤイヤ期への対応が重点となります。
乳児期といっても、0ヶ月と24ヶ月では大きな違いがあります。月齢に応じて発達する能力が異なるため、その時期に合った関わり方をすることが効果的です。月齢別のポイントを見ていきましょう。
0〜6ヶ月の時期は、愛着形成が最優先です。この時期の赤ちゃんは、泣くことでしか意思表示できません。泣いたらすぐに駆けつけ、優しく抱っこし、何が必要か確かめます。授乳、おむつ替え、抱っこといった基本的なケアを通じて、愛着を形成します。この時期は、「泣いたら来てくれる」という基本的信頼感を育てることが最も重要です。
また、たくさん話しかけることも大切です。「おむつ替えようね」「お腹すいたね」「お外を見ようか」と、日常の動作を言葉にして伝えます。赤ちゃんが声を出したら、「お話ししてるの?」と応答します。この言葉のやり取りが、コミュニケーションの基礎を育てます。
アイコンタクトも重要です。授乳中、おむつ替え中、遊ぶときに、赤ちゃんの目を見て微笑みかけます。生後2〜3ヶ月頃から、赤ちゃんは笑顔で返すようになります。この笑顔のやり取りが、社会性の芽生えです。
7〜12ヶ月の時期は、探索行動が活発になります。寝返り、ハイハイ、つかまり立ちと、動きが増えてきます。この時期は、安全な環境を整えた上で、できるだけ自由に動かせます。「危ない!」と制止しすぎず、見守る姿勢が大切です。
この時期には、人見知りや後追いが始まります。これは、愛着が形成されている証拠で、正常な発達です。無理に他人に抱かせようとせず、こどものペースを尊重します。後追いは大変ですが、安定した愛着の表れと理解し、温かく対応します。
共同注意も発達します。大人が指さしたものを見る、自分が見つけたものを大人に見せようとするといった行動が現れます。この共同注意を大切にし、「あ、犬さんがいるね」「きれいなお花だね」と一緒に見て、共感します。
13〜24ヶ月の時期は、自律性が芽生えます。「自分でやりたい」という欲求が強くなり、何でも自分でやろうとします。時間がかかっても、できるだけ見守り、自分でやる経験を積ませます。スプーンで食べる、靴を履く、服を着るといった動作を、時間がかかっても自分でさせることが、自己効力感を育てます。
イヤイヤ期が始まるのもこの時期です。「イヤ!」と拒否する、癇癪を起こすといった行動が見られます。これは自我の芽生えであり、成長の証です。保護者は、感情を受け止めつつ、危険なことや絶対に譲れないことについては毅然とした態度を示します。選択肢を与える(「赤い服と青い服、どっちを着る?」)ことで、自己決定の経験を積ませます。
言葉の理解が進むのもこの時期です。簡単な指示を理解し、単語を話し始めます。たくさん話しかけ、絵本を読み、歌を歌うことで、言語能力と同時に、コミュニケーション能力を育てます。
この時期は、友だちへの興味も出てきます。公園などで他のこどもを見ると、近づいていったり、真似したりします。まだ一緒に遊ぶことはできませんが、並行遊び(隣で別々に遊ぶ)を通じて、社会性の基礎が育ちます。
このように、月齢別に重点を置くべきポイントは異なりますが、全ての時期を通じて共通するのは、応答的な関わり、温かい愛情、こどものペースを尊重する姿勢なのです。
乳児期の非認知能力は、基本的信頼感、愛着、感情調整、好奇心という土台が育つ重要な時期であり、応答的な関わりによる愛着形成、感情を受け止める関わりによる感情調整能力の育成、安全な環境での自由な探索による好奇心の育成、そして月齢に応じた適切な関わり方によって、生涯にわたる非認知能力の基盤を築くことができるのです。
監修

略歴
| 2017年 | 本田右志理事長より右脳記憶教育講座を指南、「JUNKK認定マスター講師」取得 |
|---|---|
| 2018年 | 幼児教室アップルキッズをリビングサロンとして開講 |
| 2020年 | 佐々木進学教室Tokiwaみらい内へ移転、「佐々木進学教室幼児部」として再スタート |
| 2025年 | 一般社団法人 日本右脳記憶教育協会(JUNKK)代表理事に就任 |


