非認知能力は遺伝するのか、それとも育て方次第なのか、多くの保護者が気になるテーマです。
「うちの子は生まれつき飽きっぽい性格だから仕方ない」「親の私が協調性がないから、こどもも同じになるのでは」と考えることもあるでしょう。
確かに、気質や性格には遺伝的な要素がありますが、このような能力は遺伝だけで決まるものではありません。
研究によれば、遺伝の影響は一部にすぎず、環境や経験が能力の発達に大きく関わっています。
この記事では、非認知能力における遺伝と環境の影響について、最新の研究をもとに詳しく解説します。
非認知能力は遺伝するの?
非認知能力における遺伝の影響は約30〜50%程度であり、残りの50〜70%は環境や経験によって決まるため、遺伝より環境の方が大きな影響を持ちます。
「性格は生まれつき」という言葉を聞いたことがあるでしょう。確かに、赤ちゃんの頃から、よく泣く子、おとなしい子、活発な子といった違いが見られます。これは気質と呼ばれる生まれつきの傾向で、遺伝的な要素があります。では、非認知能力も同じように遺伝で決まってしまうのでしょうか。
双生児研究という、一卵性双生児と二卵性双生児を比較する研究方法によって、様々な能力における遺伝の影響が調べられています。一卵性双生児は遺伝子が100%同じで、二卵性双生児は平均50%同じです。一卵性双生児の方が似ている度合いが高ければ、遺伝の影響が大きいと考えられます。
この研究から、認知能力(IQなど)の遺伝率は約50〜80%と高いことが分かっています。しかし、非認知能力の遺伝率はこれより低く、能力によって異なりますが、おおむね30〜50%程度です。つまり、非認知能力の半分以上は、環境や経験によって決まるということです。
具体的には、自制心の遺伝率は約30〜40%、協調性は約40〜50%、好奇心は約30〜40%程度と推定されています。一方、神経質さや感情の安定性といった気質的な要素は、遺伝の影響がやや高く、40〜50%程度です。
重要なのは、遺伝率が30〜50%ということは、「30〜50%は変えられない」という意味ではないということです。遺伝率とは、集団全体における個人差のうち、遺伝によって説明できる割合のことです。個人レベルでは、環境や経験によって、大きく変化させることができます。
また、遺伝の影響は年齢によっても変わります。幼少期は環境の影響が大きく、年齢とともに遺伝の影響が強くなる傾向があります。これは、成長するにつれて、自分の遺伝的傾向に合った環境を自ら選ぶようになるためです。例えば、社交的な遺伝的傾向がある子は、人と関わる活動を選び、その経験がさらに社交性を高めるという具合です。
さらに、遺伝と環境は独立して働くのではなく、相互に影響し合います。同じ遺伝的傾向を持っていても、育つ環境によって、全く異なる非認知能力が育つこともあります。逆に、遺伝的に不利な条件があっても、適切な環境があれば、十分に非認知能力を育てることができます。
このように、非認知能力における遺伝の影響は30〜50%程度であり、環境や経験の方が大きな影響を持つのです。
では、遺伝的要因は具体的にどのような形で非認知能力に影響するのでしょうか。
遺伝的要因が非認知能力に与える影響
遺伝的要因は、気質という生まれつきの反応パターンとして現れ、感情の反応性、活動性、社交性といった傾向に影響を与えますが、これらは固定されたものではなく環境によって調整できます。
遺伝が非認知能力に影響するといっても、「やり抜く力の遺伝子」「協調性の遺伝子」といった単一の遺伝子が存在するわけではありません。むしろ、多数の遺伝子が複雑に関わり合って、気質や性格の基盤を形成しています。遺伝的要因がどのように非認知能力に影響するのか、理解しておきましょう。
まず、気質という概念を理解することが重要です。気質とは、生まれつき持っている反応の傾向のことです。赤ちゃんの頃から見られる個人差で、例えば、新しい状況に対してどう反応するか(積極的か消極的か)、感情の激しさ(すぐに泣くか落ち着いているか)、活動レベル(じっとしていられるか動き回るか)などです。
気質の代表的な分類として、トーマスとチェスによる「扱いやすい子」「扱いにくい子」「なかなか慣れない子」という3つのタイプがあります。扱いやすい子は、規則的な生活リズムを持ち、新しい状況にも適応しやすく、機嫌が良いことが多いタイプです。扱いにくい子は、生活リズムが不規則で、新しい状況に激しく反応し、泣きやすく機嫌が悪いことが多いタイプです。なかなか慣れない子は、新しい状況に消極的で、慣れるのに時間がかかるタイプです。
これらの気質は、ある程度遺伝的に決まっています。しかし、気質がそのまま非認知能力を決定するわけではありません。同じ「なかなか慣れない」気質を持っていても、保護者が温かく見守り、安心できる環境を作れば、自己肯定感を持ち、徐々に新しいことにも挑戦できるようになります。逆に、無理やり新しい環境に押し込んだり、叱責したりすれば、不安が強まり、挑戦を避けるようになってしまいます。
感情の反応性も遺伝的要素があります。些細なことでも強く反応する子もいれば、あまり動じない子もいます。この違いは、脳の扁桃体(感情を処理する部位)の反応性の違いに関わっていると考えられています。しかし、感情の反応性が高いことは、必ずしも悪いことではありません。適切な環境があれば、感受性の豊かさとして、芸術的な才能や深い共感性につながることもあります。
活動性も遺伝的要素があります。生まれつき活発で動き回るのが好きな子もいれば、静かに遊ぶのが好きな子もいます。活動性が高い子は、じっとしているのが苦手で、学校で「落ち着きがない」と言われることもあります。しかし、その活発さを適切に発揮できる環境(スポーツ、野外活動など)があれば、リーダーシップや行動力として発揮されます。
社交性も遺伝的傾向があります。生まれつき人と関わるのが好きな子もいれば、一人で過ごすのを好む子もいます。社交性が低いことは、必ずしも協調性が低いことを意味しません。内向的な子でも、少人数の深い関係を築くことができ、それは別の形の社会性です。
注意すべきは、これらの遺伝的傾向は「傾向」であって、「運命」ではないということです。遺伝的に活動性が低い子でも、楽しい運動の機会があれば、身体を動かすことを好きになることもあります。遺伝的に社交性が低い子でも、安心できる環境で少しずつ人と関わる経験を積めば、社会性を育てることができます。
このように、遺伝的要因は気質という形で非認知能力の傾向に影響しますが、それは固定されたものではなく、環境によって大きく調整できるのです。
では、環境要因は具体的にどのように非認知能力に影響するのでしょうか。
環境要因が非認知能力に与える影響
環境要因は、家庭での養育態度、愛着関係、日々の経験、社会的関わりを通じて非認知能力に大きな影響を与え、遺伝的傾向を強めることも弱めることもできます。
遺伝が非認知能力に影響する一方で、環境の影響はそれ以上に大きいことが研究で示されています。特に、乳幼児期の家庭環境は、非認知能力の発達に決定的な影響を与えます。どのような環境要因が重要なのか、具体的に見ていきましょう。
最も重要な環境要因は、養育者との愛着関係です。乳幼児期に安定した愛着関係を築けた子は、基本的信頼感や自己肯定感が育ち、これがすべての非認知能力の土台となります。同じ遺伝的傾向を持っていても、安定した愛着がある子とない子では、後の非認知能力に大きな差が出ます。虐待やネグレクトといった深刻な逆境体験は、遺伝的な傾向に関わらず、非認知能力の発達を阻害します。
養育態度も大きく影響します。温かく応答的な養育(こどもの気持ちに共感し、適切に応える)を受けた子は、感情のコントロール能力や共感性が育ちやすくなります。一方、厳しすぎる養育や、逆に甘やかしすぎる養育は、自己管理能力や社会性の発達を妨げます。遺伝的に「扱いにくい」気質の子でも、保護者が理解を持って関われば、その気質を受け入れ、うまく付き合う方法を学びます。
家庭の社会経済的状況も影響します。経済的に安定した家庭では、教育の機会が多く、ストレスが少ない環境で育ちやすいため、非認知能力が育ちやすい傾向があります。ただし、経済的に困難な状況でも、保護者が温かく関わり、コミュニティのサポートがあれば、非認知能力を十分に育てることができます。
日々の経験の積み重ねも重要です。遊びの機会、友だちとの関わり、新しい経験、挑戦と失敗の繰り返しといった経験が、非認知能力を育てます。遺伝的に好奇心が低い傾向があっても、面白い経験をたくさんさせることで、好奇心は育ちます。遺伝的に社交性が低い傾向があっても、安心できる環境で友だちと遊ぶ経験を重ねることで、社会性は発達します。
学校や保育園の環境も影響します。教師やクラスメイトとの関係、学校の雰囲気、教育方針などが、非認知能力の発達に関わります。協調性を重視する環境で育てば、協調性が育ちやすくなります。自主性を尊重する環境で育てば、自己管理能力が育ちやすくなります。
文化的背景も影響します。協調性を重視する文化(日本など)で育った子は、個人主義を重視する文化(アメリカなど)で育った子と比べて、協調性が高くなる傾向があります。これは遺伝ではなく、文化的な価値観や育て方の違いによるものです。
また、きょうだいの有無や順番も影響します。きょうだいがいる子は、譲り合いや協力を学ぶ機会が多く、社会性が育ちやすい傾向があります。長子は責任感が育ちやすく、末っ子は社交性が高い傾向があるという研究もあります。
重要なのは、同じ家庭で育っても、きょうだいで性格が違うことがあるという点です。これは、同じ家庭でも、それぞれの子が経験する環境が微妙に異なるためです。保護者の関わり方、きょうだいとの関係、友だちとの経験など、個別の経験が、それぞれの非認知能力を形成します。
このように、環境要因は家庭の愛着関係、養育態度、日々の経験、社会的関わりなど多岐にわたり、遺伝的傾向を大きく調整する力を持っているのです。
では、遺伝と環境はどのように相互作用するのでしょうか。
遺伝子と環境の相互作用
遺伝子と環境は独立して働くのではなく相互に影響し合っており、環境が遺伝子の発現を変えるエピジェネティクスという仕組みによって、同じ遺伝子を持っていても環境次第で異なる非認知能力が育ちます。
遺伝と環境を「遺伝が30%、環境が70%」というように単純に足し算で考えることはできません。実際には、遺伝と環境は複雑に絡み合い、相互に影響し合っています。この相互作用を理解することが、非認知能力を育てる上で重要です。
第一の相互作用は、遺伝子と環境の相関です。遺伝的傾向が、その人が経験する環境に影響を与えます。例えば、遺伝的に社交的な傾向がある子は、積極的に友だちと遊ぼうとし、その結果、社交的な経験が増えます。この経験がさらに社交性を高めるという好循環が生まれます。逆に、遺伝的に内向的な傾向がある子は、一人遊びを好み、集団での経験が減り、社交性を育てる機会が少なくなることもあります。
第二の相互作用は、遺伝子と環境の交互作用です。同じ環境でも、遺伝的傾向によって、その影響の受け方が異なります。例えば、遺伝的にストレスに敏感な子は、厳しい養育を受けると、不安や問題行動を示しやすくなります。しかし、温かく支援的な養育を受ければ、その感受性の高さが共感性や芸術的感性として発揮されることもあります。一方、遺伝的にストレスに鈍感な子は、多少厳しい環境でも、あまり影響を受けません。
この現象は「差次感受性」と呼ばれ、近年注目されています。感受性が高い子は、良い環境ではより良く育ち、悪い環境ではより悪く育つという、環境の影響を強く受けやすい特性を持っています。つまり、遺伝的に「扱いにくい」とされる気質は、適切な環境があれば、大きな強みになる可能性を秘めているのです。
第三の相互作用は、エピジェネティクスです。エピジェネティクスとは、遺伝子の配列は変わらないが、遺伝子のオン・オフが環境によって調整される仕組みのことです。ストレスの多い環境で育つと、ストレス関連遺伝子の発現が変化し、生涯にわたってストレス反応が強くなることがあります。逆に、愛情深い環境で育つと、社会性に関わる遺伝子の発現が促進されます。
動物実験では、母ラットが子ラットをなめたり世話したりすることで、子ラットのストレス反応遺伝子の発現が変化し、生涯にわたってストレスに強くなることが示されています。人間でも同様に、乳幼児期の養育環境が、遺伝子の発現を変え、非認知能力に影響することが示唆されています。
重要なのは、エピジェネティックな変化は、ある程度可逆的だということです。つまり、悪い環境で遺伝子発現が変化しても、その後の良い環境によって、ある程度修正できる可能性があります。「三つ子の魂百まで」という言葉がありますが、幼少期の環境が重要である一方で、その後の環境によって改善できる余地も十分にあるのです。
また、遺伝的傾向があっても、環境がそれを引き出さなければ、表に現れません。例えば、遺伝的に音楽の才能があっても、音楽に触れる機会がなければ、その才能は開花しません。逆に、遺伝的には平均的でも、豊かな音楽環境があれば、高い音楽能力を育てることができます。
このように、遺伝子と環境は相互に影響し合い、環境が遺伝子の発現を変えるエピジェネティクスの仕組みによって、同じ遺伝子を持っていても環境次第で大きく異なる非認知能力が育つのです。
では、遺伝を理解した上で、保護者は何ができるのでしょうか。
遺伝を理解した上で保護者ができること
遺伝を理解した上で保護者ができることは、こどもの生まれつきの気質を受け入れて個性として認め、その気質に合った環境を整え、強みを伸ばし弱みを補う関わりをすることです。
非認知能力における遺伝の影響を理解することは、こどもへの関わり方を考える上で重要です。「遺伝だから仕方ない」と諦めるのではなく、遺伝的傾向を理解した上で、どう環境を整えるかを考えることが大切です。
第一にできることは、こどもの気質を受け入れることです。「うちの子は内向的で恥ずかしがり屋」「うちの子は活発で落ち着きがない」といった特徴は、ある程度生まれつきの傾向です。それを「直さなければ」と考えるのではなく、「この子の個性」として受け入れます。内向的な子を無理やり社交的にしようとするのではなく、その子なりの社会性の育て方を考えます。
第二にできることは、気質に合った環境を整えることです。活発な子には、十分に身体を動かせる機会を提供します。内向的な子には、無理に大勢の中に入れるのではなく、まず一対一の関係から始め、徐々に人との関わりを広げます。感受性が高い子には、刺激が強すぎない環境を作り、安心できる場所を確保します。
第三にできることは、強みを伸ばすことです。遺伝的傾向は、弱みだけでなく強みでもあります。活発な子は、リーダーシップや行動力として発揮できます。内向的な子は、深く考える力や集中力として発揮できます。感受性が高い子は、共感性や芸術的感性として発揮できます。その子の特性を強みとして認め、伸ばす機会を与えます。
第四にできることは、弱みを補う支援をすることです。遺伝的に自制心が低い傾向があるなら、習慣づくりや環境調整でサポートします。例えば、おやつを見えないところに置く、勉強の時間にはゲームを別の部屋に置くなど、誘惑を減らす環境を作ります。遺伝的に社交性が低い傾向があるなら、小さな成功体験を積める場を設けます。
第五にできることは、比較しないことです。きょうだいや他の子と比較しても意味がありません。それぞれ違う遺伝的傾向を持っており、違う個性を持っています。その子自身の成長を見て、認めることが大切です。
第六にできることは、努力の価値を教えることです。遺伝的傾向があっても、努力によって変えられることを伝えます。「生まれつきだから」と諦めるのではなく、「今はこうだけど、練習すれば変わるよ」というメッセージを送ります。成長マインドセット(能力は努力で伸びるという考え方)を育てることが、非認知能力を伸ばす鍵となります。
第七にできることは、多様な経験を提供することです。遺伝的傾向がどうあれ、様々な経験をすることで、新しい興味や能力が開花することがあります。「うちの子は運動が苦手だから」と決めつけず、様々なスポーツを試させます。「うちの子は内向的だから」と決めつけず、様々な社交の場に連れて行きます。ただし、無理強いはせず、こどものペースを尊重します。
第八にできることは、保護者自身の遺伝的傾向を理解することです。「自分も昔、同じような性格だった」と理解できれば、こどもへの共感が深まります。また、「自分が苦手だったことを、この子も苦手としている」と気づけば、適切なサポートができます。ただし、「自分がそうだったから、この子もそうに違いない」と決めつけないことも大切です。
このように、こどもの生まれつきの気質を個性として受け入れ、その気質に合った環境を整え、強みを伸ばし弱みを補う関わりをすることで、遺伝的傾向に関わらず非認知能力を育てることができるのです。
非認知能力における遺伝の影響は30〜50%程度であり環境や経験の方が大きな影響を持ち、遺伝的要因は気質として現れますが固定されたものではなく、環境要因が遺伝子の発現を変えるエピジェネティクスの仕組みによって調整可能であり、保護者はこどもの気質を個性として受け入れ適切な環境を整えることで非認知能力を十分に育てることができるのです。
監修

略歴
| 2017年 | 本田右志理事長より右脳記憶教育講座を指南、「JUNKK認定マスター講師」取得 |
|---|---|
| 2018年 | 幼児教室アップルキッズをリビングサロンとして開講 |
| 2020年 | 佐々木進学教室Tokiwaみらい内へ移転、「佐々木進学教室幼児部」として再スタート |
| 2025年 | 一般社団法人 日本右脳記憶教育協会(JUNKK)代表理事に就任 |



